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[未来観光〜中国貴陽編 Vol.3-2]中国の奥地で見た僕たちが目指すべき未来

5Gで変わる街の姿

貴陽市内には、5G実験区という場所がある。チャイナユニコムと組んで、街のハイテク区の中に5Gの実験をいくつかのテーマで行ってきている。5Gは、いきなり広い範囲に広げられないことと、4Gと比べてエンドユーザーの体験よりもIoT等のBtoBの分野でイノベーションを起こすことに向いているため、実際のケースも一部のメイン通りの周囲にいくつかの実験場を設け、5GX街というテーマでの社会実験をしながらの実装が始まっている。

5Gの実験区がどの程度貴州で広がっているかを可視化するマップ。アリババクラウドを使っているから、かもしれないが、この手のデータの可視化が大好き。

印象的だったのは、顔認証と画像解析をレバレッジにした治安維持。中国の都市部の家のほとんどはタワーマンションなので、その地域に顔認証に登録されていない人がいたら、「不審者」というのがリアルタイムで特定できるようになっている。街の中で恥ずかしいことをしていたらすぐにわかってしまう。実際デモではかなり遠くにいる人の写真から、名前がリアルタイムに表示されるような仕組みが実装されていた。香港のデモで覆面禁止法が施行されたが、まさに遠くからの写真である程度、個人が特定するところまでは来ていることはよく確認できた。

街のどこに誰が歩いているかが可視化されている。顔認証で、登録されていれば名前も出てくる。

また、街中のカメラから交通量を把握したり、街の路上パーキングのデータ化の仕組みも。これは、路上パーキングが全てオンラインで決済できるような形になったり、違法駐車の取り締まりも容易になっていきそう。

街の駐車スペースに誰が駐車したかが一目瞭然。不明者が駐車すると一瞬でバレる

確かに、これだけ見える化されていると、犯罪抑止効果があるというのも分かる気がする。お天道様が見てるから、ではなく、本当にAI様が見ているからいい行いをしとこう、という世界だ。

論議を呼びそうだなと思ったのは、学校の教室にカメラが設置され、どのくらいの学生が集中して聞いているのかをトラッキングできるシステム。これは、学校の先生によって授業の質にばらつきがあるため、その改善を促すための仕組みだそうだが、このような仕組みを個人を特定するような形で悪用される可能性も大いにある。実際に、現地の学生さんに聞いてみると、公共スペースだから自然なことだ、という考え方と、絶対に嫌だという考え方が分かれていたのが印象的だった。

自分がやった授業で誰がどのくらい集中しているかが一目でわかる。寝てもOKな授業をやっていた先生は本当に化石になってしまうのだろうか。

5G実験室を出て、科学城というサンエンスパークにて、車の自動運転システムとモジュールの開発をしている貴陽出身のスタートアップPIXのガレージを訪れた。この地域は、5Gがすでに使える実験区になっており、ガレージで開発したシャーシを使った自動運転の実験ができるようになっている。このサービスは、移動という概念を「自分たちが行く」のではなく、「欲しい体験がこちらに来る」というコンセプトを掲げ、3Dプリンターで作った自動運転モジュール上に、ロボット型コーヒーマシンを乗せて自動で来るというモジュールはすでに実装されている。

シャーシがメインで、その上の体験はモジュール型でカスタマイズできる自動運転車

この考え方は、街に対する考え方を180度変える考え方になる。去年行った深センもそうだったが、中国の先進都市では全てをオンラインで購入し、配送してもらうことが自然になっている。その流れは、外食デリバリーから、生鮮などの食品へ広がっていき、街中のお店も半分以上はデリバリー向けの商品を作るいわば展示場兼工場のような場所になってきている。それに伴い人気のあるコーヒーチェーンも中の客席は少なくなっている。無人コンビニや、デリバリー専門のショーケースとしてのlucking coffeeなど土地面積の効率を最大化させる工場型の店舗と、出会いとオンラインの登録、良いデザインや体験を楽しむというエンターテイメント型の場所に二極化していくだろう。

深センクオリティのサービスが次々と入ってくる街

最近の中国というと、AlipayやWeChat payのようなキャッシュレス決済が話題になるが、むしろ、街中で見ていて面白いのはそれらのプラットフォームを使ったオンラインとオフラインを融合したスムーズな体験に多く出会えることだ。深センは、中国のシリコンバレー、元々は小さな漁村で、テクノロジー感度の高い人が作った人工都市という装いで新たなモデルを社会実装するのは比較的アレルギーも少ない。しかし、貴陽は、れっきとした古い慣習が残る地方都市で、高齢化率も高い。決して、シリコンバレーではない。しかし、そんな場所においても、街の景色は明らかに変わってきている。

例えば、勾配の激しい場所を移動するということで、電動自転車型のMobikeや、電動スクーターサービスが街のあちこちに見かける。

山地にある都市である貴州ならではのMobike電動自転車のシェアサービス

また、街の公共ロッカーも電子化が進む。Hiveboxというサービスは深センで大きく伸びているサービスだが、QRや顔認証で開く対応をしており[川ノ上1] WeChat payで支払いができる。これを使って、配送の受け取りや、中国版メルカリの品物の受け取りをできるようになっていたり、サイネージを使って企業がプロモーションのサンプルをその場で受け取れたりする。


スマートロッカーのHive boxは、大きなテナントビルではあちこちで見かけた

街のショッピングモールにあるのは、簡易健康診断器具だ。手を置いて、1分間たつと、様々な内臓器官のどこがどのくらい疲れているのかや、食事や運動のレコメンデーションをくれる。アプリをいじっていると、良い睡眠ができるトラッキングサービスなどとも繋がる。

訪問時体調の悪かった筆者で試せなかったのが心残りだが、ワンコインサービスの割には詳細に出てくる街の健康診断機

そして、Alibabaが経営する高級スーパーフーマ〜(盒馬鮮生)は、貴陽にも数店舗あるそうだ。

日本でいうと成城石井のようなアッパーミドル向けの高級スーパー[川ノ上1] だが、基本的には全てセルフサービス。店員は、基本的にはオンラインの注文をまとめてショッピングバッグに入れるために動き回っている。(ここはまだ自動化されていない)QRコードで検索すれば生鮮食品の産地等も全てデータが出てくる。一度お店に行って、どんな品物があるかを知ってしまえば、あとは、スマホで買い物を済ませられる。

こうやって生活が便利になっていく中で、逆に生まれてきているのが文化への興味だ。貴陽の新しくできたショッピングモールの最上階には、上海発の書店、鐘書閣(Zhongshuge)という日本でいう蔦屋書店のような書店が、そのグループとしても最大店舗(2300平米)が2018年10月にこの貴陽に生まれた。行ってみると、とにかくクオリティが高い。入り口には、アートとサイエンス&テクノロジーの書棚が並び、意識の高さを物語る。これは政府側の積極的な文化レベルを上げていこうという施策だそうだが、実際にお店にもかなり若い人を中心に客が多い。

鐘書閣書店は、一言で言うと超イケてる書店だが、地元の学生からすると、「意識を高くしなさい」と言う国のメッセージも感じるとのこと。でも、イケてる。

また、街を歩いているとTeslaのシェアサービスなども見受けられる。たまたま横を通りかかった時に降りてきたのは、30代くらいの爽やかな男性で、このような高級モビリティが日常でアクセスできる形になってきているのも驚きだ。

中国の地方で知った未来の僕ら


今回、20年ぶりに中国に来て色々な人と話しながら感じたのは、インターネット世代で育った中国人は、よくよく話してみると感覚がとても似ていると感じる部分が多かったということだ。大学を出てすぐに子供モデルのモデルウォークの学校で起業した女性起業家にじっくり話をすると、お金よりも自分らしい幸せな生き方を大事にしたいとから起業をしたという話をしてくれた。彼女は、自分が代表的ではないと言いつつも個人の個性や創造性を生かした生き方をできるようにしていくべきで、幼少期からモデルウォークを通じて自己表現をする場を作ることで創造性を伸ばしていきたいというビジョンを語ってくれた。

そんな彼女に、日本のイメージを聞いてみると、アニメや、建築、デザインなどの文化と、介護やヘルスケアなどの健康産業への興味だ。ビリビリなどのいわゆる違法サイト[川ノ上1] (現在は規制が厳しくなっている)などのおかげで、下手したら日本人以上に日本のコンテンツへの造詣も深いし、彼らは日本語はわからなくても日本語の歌は歌えたり、日本の芸能人のことは詳しい。僕らが中国について知るのは政治ニュースの文脈が多いし、愛国(反日)教育や、人権などの話ばかりを耳にするけど、中国人は基本的には「政策あれば対策あり」の国であり、政治の話もその虚構性を知りながら話半分に聞いている人も多いらしい。むしろ、情報鎖国をしている中で、日本語のコンテンツが違法でも観れる環境だったからこそ、現代の日本の姿がありのままに伝わっているという面があるわけで、IPを完全に規制することは、ビジネスを成り立たせる反面、メディアから受け取るプロパガンダに対する影響をより受けやすくなる面もあるのかもしれないし、その前提で中国とは付き合っていく必要がある。

米中貿易戦争で焦点になっている知的財産権の保護がどこまで進むかは予断を許さないものの、中国は今後知財を自らが作っていく時代方向にシフトしていく可能性は高い。規制もしっかりした上で、中国で生まれた知財を国際的に守るという政策も同時に進めていくだろう。 今までより違法コンテンツも厳しくなる中、新たな仕組みの中で、しっかりと日本のコンテンツを中国に流通させていくという取り組みを進めることは、これだけ大きくなった隣国の心を掴む上ではとても大事な戦略だと思う。最近日中関係が改善しているのも、高齢化社会への対策や、IT以外のハイテク技術など、日本にはまだ中国にないものがあり、それらがWin-winになる局面が以前と比べ増えてくる10年になるだろう。(だからこそ、中国との政治的な関係改善も進みやすい状況になっている)


大学生を卒業してモデルウォークの事業を始めた若手起業家

貴陽の最後の夜、まさに、中国初のコンテンツ産業の担い手の一人である、日本のアニメ産業のアニメーターの会社をやっている夫婦のお宅でBBQを振舞ってもらった。アメリカで産んだお子さん三人と、お父さん夫婦との3世帯居住をしている一家にBBQを振舞ってもらったのだが、そのホスピタリティと、暖かさに感動した。まだまだ地方都市だから、家族的な暖かさが残っているということらしいが、客人になった人に対するホスピタリティの凄さは、正直日本人のおもてなしをはるかに超えた心に訴えかけるものがあるのが、中国のおもてなしだ。それは、僕が20年前に中国に行った時と何ら変わっていなかった。中国人は、懐に入っていくと良くしてくれる文化がある。

今まで遠さを感じていた中国は、2世紀ぶりのアジアの中心になろうとしている。そんな大国との付き合い方は、今までとは違ったものになっていく。デジタルの先進地であり、今後の文化産業を作っていくパートナーであり、そして、もしかしたら、循環経済をAIのプラットフォームを使って実装する新たなモデル作りを出来る可能性もある。そして、そんな時代だからこそ忘れてはならない、中国流(いや、アジア圏のビジネスにある程度共通するかもしれないが)人と人の深い繋がりを作ることの大事さ。

中国の田舎とも言える貴陽を、「未来観光」として行くことになったこと自体が、この20年の時代の変化を物語る。しかし、時代も変わっていく中で、最低でも民間レベルではこれから成熟していく中国と新たな付き合い方を作っていくことに大きな意義と可能性を感じた。

表層的に社会を捉えると、インターネットによって生まれた国内格差による不満を代弁するナショナリズムやポピュリズムに走る政治を、メディアが増幅して、世界にばら撒くことで、僕らを「分断」へ導く罠がいっぱい仕掛けられている世の中。でも、デジタル上の情報のほとんどは真実のほんの一部を見ているに過ぎない。一方で、インターネットで繋がったことで、むしろ、普段得ているニュースなどの情報だけではなく、コンテンツやサービスなどの文化によって共有できるものも一方では増えている。分断を生むものではなく、共通点を作れる文化によって共通の土台に立てる未来を作っていくというのが、僕らが目指す未来ではないだろうか。中国の田舎という遠く思えていた場所で感じた共有できる部分から、僕は未来に向けて見ていたい光を見出せた気がした、そんな旅だった。 貴陽は、5G/Big dataの社会実装における先進地域であり、日本企業とも地方政府レベルで組みたがっている。中国の新旧世代が入り混じる地域における社会実装における実験場としては非常に面白い場所なので、ここにリサーチやデザインラボがあると非常に面白い地域です。今後、現地でのデザインリサーチや、ブートキャンプ型のデザインラボなども企画したいと思っていますので、興味がある方がいらしたら是非ともinfo@biotope.co.jp宛にご連絡いただけたらと思います。

Kunitake Saso

TEXT BY KUNITAKE SASO

戦略デザインファームBIOTOPE代表/チーフストラティジックデザイナー。東京大学法学部卒。イリノイ工科大学デザイン学科(Master of Design Methods)修士課程修了。P&Gにて、ファブリーズ、レノアなどのヒット商品のマーケティングを手がけたのち、ジレットのブランドマネージャーを務めた。ヒューマンバリュー社を経て、ソニークリエイティブセンター全社の新規事業創出プログラム(Sony Seed Acceleration Program)の立ち上げなどに携わったのち、独立。B to C消費財のブランドデザインや、ハイテクR&Dのコンセプトデザインやサービスデザインプロジェクトを得意としている。「直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN」、『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』著者。大学院大学至善館准教授。

Published in未来観光