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フィンランド発、循環するブランド作りの現在地


北欧フィンランドでは、2016年からサーキュラーエコノミー(循環経済)に取り組んでいる。サーキュラーエコノミーとは、従来の資源を「取る」「作る」「捨てる」の一直線型から、「廃棄物と汚染に配慮した環境設計」「資源を使い続ける」「自然界の再生」の3つを原則とした経済の発展と環境負荷の削減の両立を目指す循環型経済モデルである。

この中の「資源を使い続ける」ための一つとして、「3R」という手段がある。
3Rは Reduce(リデュース)、Reuse(リユース)、Recycle(リサイクル)の3つのRの総称だ。Reduce(リデュース)は、製品をつくる時に使う資源の量を少なくすることや廃棄物の発生を少なくすること。Reuse(リユース)は、使用済製品やその部品等を繰り返し使用すること。そして、Recycle(リサイクル)は、廃棄物等を原材料やエネルギー源として有効利用することだ。
このような3Rを通じて、使えなくなったものをできるだけ自然環境に戻したり、3Rを行う過程であらゆるステークホルダーとコラボレーションすることで、できるだけ資源を使いきったりするなど、資源を最大限に活用して付加価値を生み出し、資源が循環する経済の仕組みづくりへの転換をビジョンにしている。

2015年、EU議会はこのサーキュラーエコノミーの政策提言を発表。以降、欧州各地の研究機関などでは、サーキュラーエコノミーの実現に向けてさまざまな研究が行われている。
その中でもフィンランドは、2025年までのサーキュラーエコノミー・ロードマップを策定し、「食」「森林」「テクニカル(製品ライフサイクル)」「輸送・物流」「国際的な共同アクション」の5つの分野に取り組んでいる。

そんな背景がある中、首都ヘルシンキにおいてはサーキュラーデザインの取り組みが進み、事例紹介を含めたセミナーなども盛んになってきており、昨夏ヘルシンキで行われた「世界サーキュラーエコノミー フォーラム」に参加した。筆者は、フィンランドに2013年から在住し、主に企業の非財務情報開示などのサステナビリティ活動の支援に関わっており、感覚でいうと、まだまだ明確な答えはなく発展途上だが、今回は現場で感じた気づきを紹介したいと思う。

シルクのような肌触りのバッグ

一見すると、普通の再生紙バッグかと思わせるが、実は木質繊維を素材にしている。フィンランドの基幹産業の一つである森林資源を活かして、従来のバッグとは異なる価値を生み出すことに成功した「PAPTIC®︎TRINGA」。

PAPTIC®︎TRINGAのベーシックデザイン。繊維をイメージしたような会社ロゴが施されている。
PAPTIC®︎TRINGAのベーシックデザイン
繊維をイメージしたような会社ロゴが施されている。

その特徴を見てみると、次のようなことが分かる。まず持続可能に管理された森林で伐採された木材から繊維を抽出していること。最大100回の使用が可能でライフサイクルが長いこと。使えなくなったら、ダンボール分別でリサイクルが可能なこと。再生紙の生産工程と比べて、水とエネルギー消費量が少ないこと。水に濡れてもすぐ乾き、またバッグ自体が軽いため、輸送や保管などの取り扱いが楽なこと。リサイクル後は自然界で生分解が可能なこと。そして、従来の製紙加工の製造ラインでの製造が可能なため、新しいインフラや設備投資は不要ということだ。
まさに今ある資源を使って環境負荷を減らしているのだ。

さらには木材繊維の機能である不織布のような耐久性や柔らかさなどを組み合わせて、ショッピングバッグに留まらず、ポーチやトートバッグなどテキスタイルの汎用性も最大限に活かしている。

従来のポーチと全く同じ外観

以前「世界サーキュラーエコノミー フォーラム」に参加したときに、ショッピングバッグが展示されていたので実際に手にとってみたところ、従来のペーパーバッグの先入観を覆された。ペーパーバッグのガサガサという音や紙質の肌触りなどは一切なく、滑らかで心地よい、そして水に濡れても乾いて再利用可能というのが印象的だった。

またデザインも従来のものだと「◯◯デパートのショッピングバッグ」というのがわかるほどロゴや店名が施されているが、こちらだとどこにも属さないデザインのバッグで、特別TPOを意識せずに使えるので個人的に使ってみたいと思った(PAPICOのロゴはデザインされてはいるが、広告になるような煩さはない)。

また余談だが、フィンランドでは毎年12月6日の独立記念日に、その年のテーマを決めてテーマにあった著名人やテーマに関係なくその年に活躍した人たちを大統領が招待する晩餐会が開かれる。2018年はサーキュラーエコノミー がテーマで、このPAPTIC®︎の創業者などが招かれた。彼らの胸元には木材繊維で作られたポケットチーフが装飾されていて、一時期話題となった。

こうして国内での注目が高まっていくと同時に、国際的にもラグジュアリービジネスの世界的グループ「LVMH」の「LVHMイノベーション・アワード」のファイナリストや、「ヨーロッパ紙リサイクル賞」「バイオベースのマテリアルオブザイヤー2017」に選ばれ、徐々に周辺国でも認知度が上がってきている。
フランスの伝統的なデパート「Galeries Lafayette」でもこの「PAPTIC®︎TRINGA」を利用しているという。その影響もあってか、最近フィンランド国内の老舗デパート「SOKOS」でもショッピングバッグがローンチされた。

「SOKOS」デパートのショッピングバッグ。素材以外は今までのデザインを踏襲。

ショッピングバッグやトートバッグなどのテキスタイルバッグ以外にも、eコマースメーラーや一般的な梱包材として使われ始めていて、今後ますます目が離せないバッグだ。

社名である「PAPTIC®︎」の由来は、触覚の意味である「haptic」と紙の「Paper」の語呂合わせからきているという。五感のひとつである「触れる」という感覚も含めて、今までの価値観が変わろうとしていることをこのバッグから感じ取った。

こうした国内の取り組みが高まる中、ヘルシンキのDesign Forumでは持続可能なビジネス開発および毎年恒例のDesign Weekの一貫として、サーキュラー・デザインをテーマとしたセミナー「Design Forum Talk >3 Circular Economy 2019」が開催された。

当日の参加者は、7割ほどがデザイナー、2割ほどビジネス関連、1割はその他という印象だった。内容は、サーキュラーエコノミー の概要とフィンランドにおけるBtoBの取り組み、オランダのスタートアップにおける事例などが紹介された。その事例もなかなか興味深いものであったので、続いてこちらを紹介したい。

マンゴーの皮とリタイア革職人で新たな価値を生む

まずはオランダ・ロッテルダムのスタートアップ、Fruitleather Rotterdamの取り組みだ。

革シートのサンプルボックス
鍵専門店のWindmillkeyとのコラボで作られたキーホルダー
Koen Meerkerk氏(左)とHugo de Boon氏(右)

ロッテルダムのWillem de Kooning Academyで空間デザインを勉強した若者2人はある時、マンゴーの皮が大量に捨てられていることを目撃した。なぜこんなにも捨てられているのか?この廃棄物をどうにかできないか?と疑問を抱きながらたどり着いた先は、マンゴーの皮で革製品をつくることだった。果物の皮を素材にするということで、毎年10億頭以上の動物が屠殺されている問題へのアプローチにもなる。さらに、革製品を作る際にリタイアした革職人たちとコラボすることで、彼らの雇用機会を生むこともできる。

彼らのビジョンは、食品廃棄物の問題に対する認識を広めることではない。廃棄物を使用すること、退職した職人たちのスキルを再び社会に還元することで、従来の消費のあり方や人の働き方を再考するきっかけとなるからだ。

現在彼らは、サンプルとしての革シートをはじめ靴、キーホルダー、バッグなどのアクセサリー製品を中心に生産している。今後はインテリアなど家具製品づくりにも挑戦したいと語っている。

プロトタイプとして作られた靴

自然界から学ぶバイオ・デザイン

もう一つの事例は、ロンドン、上海、ヘルシンキにオフィスを構えるテクノロジー・デザイン・エージェンシーのOmuusの例だ。
当日のセミナーのプレゼンターは、ノキアとマイクロソフトでマテリアル・デザイナーを担当し、ファッション業界でもデザイナーとして働いていたというGrace Boicel氏だ。Omuusは、Boicel氏のようにノキアとマイクロソフトで経験を積んだデザイナーやエンジニアが主なメンバーだという。

Grace Boicel氏

こうした経験から、未来のデザインを考えることをテーマに話してくれた。Boicel氏は最近、デザインするときは、自然の素晴らしさや寛大さを学ぶ必要があると考えている。なぜなら、自然は創造的で洗練されているからだと彼女いう。

例えば植物なら光合成からはじまり酸素を放出し、人間や動物が消費し、CO2を排出したり、廃棄物を堆肥したりして次の植物の肥料となる。そして芽が出て再び光合成がはじまる。この自然界の循環すべての段階においてムダなものは一切ない。

昨今の大量の廃プラスチックを見ても、解決にするには長い時間がかかる。衣類にしてもワンシーズンだけ着れるのものを生産して、結局は埋立地へと捨てられる。今のデザインは、アップグレードできない点が問題だと考える。

そこで彼女たちはこれからのデザインについて、人がもっと意表をつくような、巧妙な新しい見方や考え方に基づいたもの(resourceful)をつくっていきたいと考えている。

その一部として、2019年にローンチされた電気自動車「Scouter」を紹介する。

ベーシックデザインの「Scouter」

これは超軽量構造で従来の自転車や車とは全く異なる電気自動車だ。軽くて丈夫なデザインをコンセプトに、最小限の原材料で最大限に素材が活かせるよう、自然界にあるデザインパターン(ボロノイ)を参考にしたバイオデザインを追求している。また、超軽量でエネルギー効率を高くするための素材主導のデザインも追求している。従来の車の素材であるプラスチックや金属類だと重くて柔軟性が乏しいため、天然繊維複合材の利用にも挑戦している。汚れをはじき、耐水性のある添加剤によりテキスタイルの特徴でもある耐久性の機能をデザインできるという。
このようなデザインの車は、現在の都市空間で、さらに自然の中でもフィットしなければならない。

一瞬、大きなカマキリがいるかのように見えたほど違和感のないデザイン

また、さまざまなユーザーが使えるよう簡単にカスタマイズできるデザインを施している。

色はもちろんのこと、バックサイドには宅配用の荷物を保管するスペースを設けたりできる。

Boicel氏自身がデザインの仕事をするとき、常にあらゆる問題を解決しようとする。 そしてデザインのヒントはどこにでも見つけることができるという。でも、これからは特に自然界を振り返って、どのようにして自然の世界が保たれているのか、どのような機能が人間界に活用できるのかなどを、よく見る必要があるという。

「自然の智慧から学ぶ」「素材主導のデザイン」「スマートなカスタマイズ」「モジュール設計」「改造可能な設計・製品」
このようなデザインには、わたしたちが想像する以上のインパクトがあると信じているという。

サーキュラーエコノミー・デザインの取り組みは、始まったばかりだ。日本でいうと従来の環境配慮設計が部分的には該当するだろう。しかし、より生態系を守りながら人間界で使いきったものを自然に戻す仕組みを施し、そして何と言っても地球全体に新しい価値を生み出すことが、これからのデザインであることは間違いないだろう。

※写真出展 全て各ホームページから
Paptic
Fruitleater Rotterdam
Omuus

Tokiko Fujiwara-Achren

TEXT BY Tokiko Fujiwara-Achren

フィンランド在住。専門はサステナビリティレポートなどの非財務情報開示。
移住前は、日本の海運業界(邦船・外船)にて主にマネジメント系の業務に携わる。その後、学生時代から関心のあった環境・社会問題の解決に携わるレポーティングコンサルタント会社へ転職。プロジェクトマネージャーとして、多くの日本企業のCSR/サステナビリティ活動支援に携わる。
移住後は、専門分野に取り組みながらフィンランドに関するコラムをはじめ、大学・研究機関のサーキュラーエコノミー・プロジェクトなど地元の活動に参画している。最近の関心ごとは、Transition Design(持続可能な社会に向かうための新しいデザイン研究・実践分野)や複雑な問題の解決策や創造性を生み出す対話型アプローチ。2018年より、日本へサーキュラーエコノミー を普及するためのプラットフォーム「Circular Economy Lab Japan」https://circular-eco.com/を共同運営中。
自身のホームページ→「今と未来のあいだ」https://actokin.com/

Published inEcologyEuropeFinland