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【After Coronaの世界 vol.2-1】シンギュラリティ大学が見るパンデミックとの戦い方 防疫編

新型コロナウイルスの感染が欧米に広がることで、一気に「世界は変わった」。これまで、中国やシンガポール、日本での感染拡大の際にはアジア予選ラウンドで、ほとんど欧米のニュースやリソースも、ヘルスケアや感染症の専門家の学会で世界中でタイムリーにイシューされる論文を除いては対岸の火事という様相があったが、この数日で一気に「世界は後戻りできない」変化をした印象がある。

筆者は、1月の終わりからずっと英語の論文や、各地の現地メディアの記事をみながら動きを追ってきたが、その中でも、世界の知の集まる英語圏が動いて以降、この事件についてシェアされる知の質が一気に上がったように感じている。その中でも今回紹介したいのは、シンギュラリティ大学で3/16-18にオンラインで実施されたCOVID-19 VIRTUAL SUMMIT: The State of Future Pandemicsのカンファレンスだ。

シンギュラリティ大学は、「テクノロジーを横断で活用した10億人の課題解決」を掲げ、繋がってしまった世界によって生まれる「エクスポネンシャル=等比級数的な変化」に備え、より良い人間性を作り出すことを提言している。筆者も、2016年にExecutive Program (通称SUEP)に参加し、その内容をテクノロジー誌WIRED VOL24に寄稿した。(その抜粋版、エクスポネンシャルを知らずに未来は語れない:「シンギュラリティ大学」で学んだ6日間はここでも見れる)その後微力ではあるが日本でグローバルインパクトチャレンジの立ち上げに関わり、定期的にコミュニティの一員として微力ながら関わってきた。

元々、グローバルのカンファレンスや、ブートキャンプをオンラインコミュニティを巻き込んで実施するなど、コミュニティの巻き込みやオンライン配信にも積極的だったシンギュラリティ大学だが、倍々ゲームで等比級数的に伸びるものとして、コロナウイルスほどにわかりやすい対象はない。Exponentialの本家Singularity大学がこのテーマをどう料理するのかはとても興味があった。

今回のCOVID-19 VIRTUAL SUMMITは、参加者なしのオンラインによる無料配信だ。ワイドショーをはじめとする「見ていられないレベル」の報道を見て、完全にNHKと海外の英語メディアクロールに移行していた筆者は、子どもを夜寝かしつけた後に見始めたのだが、これがとてつもなく面白い。何回かに分けて気づきを紹介してみようと思う。

ただし、見る上で一つ注意が必要。欧米と日本における感染のパターンは、現状違う。ウイルスの基本再生産数R0の数値が欧米の方がはるかに高い。この要因としては手洗いに対する意識の違いが日本の高いことがあげられる上に、日本は皆保険制度のお陰で医療コストが使用者側としてはとても安い国だ。その前提の違いがあって、対策の違いになるということを付記しておく。NHKスペシャルは非常に良い内容だったので是非ともご覧になってほしい。また、専門家会議の資料は必見である。

それを踏まえた上で、欧米をはじめとした英語圏でこれからどのような議論が起こっていくのかは、今後世界には大きい影響力がある。その中で僕らは何を考え、何をすべきなのか?を

1941年に戻った世界において今やるべきこと

マイクロソフト創業者のビルゲイツが、今回のコロナウイルスを「100年に1度のパンデミック」と表現したのは、記憶に新しいところだ。彼は、文も寄稿し世界のリーダーに対して、変化へ備えていくことを求めている。著者は、この事件の途中から、このウイルスは、歴史のパラダイムが変わることを意味することを直観したが、シンギュラリティ大学の議論の中でもいくつかの歴史的な意味合いが語られている。

地政学の専門家であり、小説家でもあるJamie Metzl氏の講演では、今のアメリカの状態は2001年911の状態を越え、1941年の時代に戻っていると考えるべきだという。彼曰く1941年段階では、「戦争によってどういう結果がもたらされるのかはわからなかった。そして、世界の多くの国が独立し、国際連合やWHOが生まれた。新しい世界秩序ができた」。そしてその過程で、様々なイノベーションが加速した。(New technologyやToolという言葉を使っていた)

また、「Old world is dying.Twilight fears monsters. New world has not been emerged」という言葉を引用し、国際連合と、国によるトップダウンによるシステムの限界を指摘。例えば、国を超えた感染者のデータの共有などのプラットフォームができていないことで感染が拡大したことを指摘し、これからの時代は、デジタル上で繋がった群衆の力による新たな枠組みの憲法と、新たな国際連合の形を作っていくべきだ。と提言した。

戦後の秩序は、アメリカがリードしてきたものであり、トランプ大統領によってほぼ破壊されかけていたOld worldが、今回で完全に終わり、次の秩序に向けてトップではなく、一人一人が貢献できる世界を作るべきだというメッセージには非常に共感できる。実際、サミットでは、様々な次世代モデルの提言や群衆による実装の動きが多く語られることになる。

ウイルスとの戦いに向けて

コロナウイルスは、世界を一気に有事モードに変えた。日本でも、戦後初めての小中高校の一斉休校という特殊な状態になっているが、最近アウトブレイクが始まった欧米ではもはや国境封鎖、完全な外出の禁止など「戦時中モード」に変わりつつある。フランスのマクロン大統領は、明確に「これは、ウイルスに対する戦争だ」という言葉を使った。日本は、台湾、シンガポールらと並んで、世界では感染爆発が起こっていない数少ないエリアになりつつあるが、日本の公衆衛生意識の高さや、人との距離の遠さ(握手やハグをしない、話すときに距離が遠い、教会などの地域コミュニティの数が少ない)という点などで社会的に爆発を防いでいる。また、311の記憶も新しく、定期的に起こる台風や地震などの災害対応に慣れているせいか、パニックの度合いも欧米と比べると冷静に対応しているというのは特筆すべき状況のように思う。

ウイルス対策について、大前提で語られているのはCDCによってベースが作られた以下のチャートだ。厚労省の加藤大臣が会見でも使用し、よく見るようになったチャートで、ピークを遅らせることで医療崩壊を起こさない。各国の対策は概ね、この流れを踏襲している。

出典:https://www.nytimes.com/2020/03/11/science/coronavirus-curve-mitigation-infection.html

こちらに対して、日常で気をつけるべき対策についても大前提ではあまり変わらない。
・手洗いの徹底(そのために、歌を歌いながら最低20秒洗う)
・不必要な外出をしない。どうしても移動するときは人と1mの距離を取る
・部屋を頻繁に換気する。
・加湿器を使って屋内の湿度をあげる

コロナウイルスは、社会における衛生習慣が影響するものであり、医療以前に社会の行動を変えるためのメッセージの徹底が、大事であることが伺える。

一方、日本ではあまり聞いていなかったポイントも。この辺りは、今の欧米が中国並みに有事体制に入っていること感じる。(日本でも、近い将来起こらないとも限らないので知ってて損はないはず。)

・フードデリバリーを使う場合は、直接受け渡しをせずに置いてもらう(中国ではやっていたけど、まだそこまで差し迫ってない感)
・室内用の靴と室外用の靴を分ける。(日本では当たり前だけど・・・)
・感染者が発生した場合は、感染している場所であるRED ZONEを明確に家の中で分ける(これは日本の狭い家だと難しい場合もありそう)
・免疫機能を高めるために健康的な生活をする。よく寝る、エクササイズをする、笑うなど。(これは日本でも結構言われている)
・ビタミンCやビタミンDを取る。(これは日本では科学的には効果がないと否定されているので要検証の論点のようです)
・年齢に関わらず、万が一かかったときのために遺書を書いておく(これは衝撃だった。そうか、有事ということはいつ死が訪れても仕方がないという備えが必要なのだと)

コロナウイルスは、人間の免疫機能とウイルスの戦いになるため、免疫機能を強化するために自宅でも運動したりストレス解消できるようなダンスや、Nintendo Switchのリングフィットなどは活用できる。また、料理をすることで栄養バランスを取ることも有効だろう。

また、遺書については、元気だった人に突然の別れが訪れる可能性やその後の特に相続の大変さを考えると合理的な提案だと思う。日本だとなかなか直視できないが、あえて大人の家族全員で遺書を書くというようなエクササイズも、少しユーモラスに企画できるのではないか。

ウイルスとの対策に使える武器

冒頭の投稿で、1941年という比喩が使われていたが、戦争の比喩を使うとしたら、テクノロジーをしっかり使える武器に変えることが必要であり、その取り組みがいくつか紹介されていた。サミットの冒頭に、Dr. Divya Chander氏が、防疫の視点から現在取り組まれていることと、将来的に使えるかもしれないことについての紹介があった。日本で報道されているものとは違った視点もあり、主なポイントを紹介したい。

①全体像を把握する〜トラッキング
まずは、一刻一刻と変わる全体の状況が可視化して見ることが重要だ。日本のメディアを見ていると、日々の「XX県の感染者が発生した」という、地域には意味があるが、全国には意味がないどころか、不必要な不安を煽る結果となっているような報道が多い。特に、等比級数的に変化していくパンデミックの場合は、事実を単体で見るのではなく、流れで比較する必要がある。そういう意味では、公衆衛生の権威でもあるJohns Popkins大学のダッシュボードは非常にわかりやすい。

Johns Popkins大学のコロナウイルスの世界の今がわかるダッシュボード:https://coronavirus.jhu.edu/map.html

ウイルスのDNA配列を解析し、感染ルートを特定、可視化するような取り組みも起こっている。NEXTRAINは、オープンソースの病原菌のDNAデータを活用したバイオインフォグラフィックのプラットフォームで、410種類のDNAを分析し、どこからどこに感染が伝播したかを可視化したプラットフォームだ。嬉しいことに日本語版も用意されている。リアルタイムで世界の状況が可視化されているので是非とも見てみてほしい。ちなみに、この分析の元データはこちらから。

https://nextstrain.org/narratives/ncov/sit-rep/ja/2020-03-13?n=1
Covid19がどのように変異していったかのトラッキングデータ

3/19現在は、以下のような内容をゲノムデータの変異の変遷とともに紹介している。
・COVID-19 はヨーロッパ全体に広く伝搬しており、国々の間で大きな移動があります。
・英国への少なくとも4つの伝搬を特定し、その一部にはコミュニティでの広がりがあります。
・イランを世界の他の地域と結びつける旅行関連の事例が数多くありました。
・これまでに米国に多くの伝搬があり、その結果、複数の州で地域的な広がりの連鎖が生まれました。
・ワシントン州での流行は拡大し続けています。いくつかのケースは、グランドプリンセスクルーズ船のケースと密接に関連しています。
・カリフォルニアで COVID-19 の地域伝搬が発生しています。
・医療システムの負担を軽減し、感染の影響を受けやすい人々を保護するために、社会的な距離を置く措置を迅速に実施する必要があります。


上記写真の最後は、各地で発見されたコロナウイルスの転移のパターンを分析したもの。コロナウイルスには、S型と変異した後の強力になったL型があると言われており、この辺りの分析は今後この手の情報が可視化されることで世界中で進みやすくなっていくと思われる。

今回のような、未知のウイルスで答えが見えない相手との戦いでは、常にリアルタイムでわかっていることを可視化し、全国に分散した現場での知恵を統合するためのプラットフォームが重要な役割を果たす。このような知の統合の動きは、後ほど紹介したい。

②感染の有無の診断を行う〜テスト
現在のコロナウイルスの診断については検体をDNA増幅することで検出するPCR検査が行われている。通常のインフルエンザの検査キットと違い、数時間を要することから現在は、限定的に行われている。

一方、韓国では、Kogene Biotech社の簡易検査キットを活用し、ドライブスルーで検査をすることで、1日20000件の検査を可能にしている。

韓国でのドライブスルー検査の様子 (Singularity university Summmit )

アメリカも、基本検査体制に対しては大きな遅れが指摘されており、スイスの製薬メーカーロッシュが開発した検査システムコバス6800/8800を活用することで、検査スピードが10倍になるという。

PCR検査は、検査精度が低いことが課題で、偽陰性、偽陽性などによるパニックが医療崩壊を招きかねないということで、初期ステージでは、過度な検査のリスクがあったのではないかということで、重傷患者に限ったテストをしていた日本政府の方針は当時は正しかったのではないかと思っている。(PCRの拡大は厚生労働省としても方針に入っている)一方、グローバルでは韓国の事例を良いケースとしながら、テストを拡大していくステージに入っている。

米のフィラデルフィアに本拠地を置くスタートアップbiomemeは、スマートフォンを使って簡易でPCRを行うソリューションを販売している。アンドロイドのスマホと、検査キットがセットでだいたい120万円前後となっている。(この精度については不明)

また、綿棒でドアノブを触ることで綿棒でコンタミネーションを1時間で確認できる機器CHAIが活用可能となっていて、ニューヨークでは屋外テントでの検査が行われるようになっている

https://shop.biomeme.com/collections/covid-19
Sherlock社のコロナウイルス対応検査キット
https://www.broadinstitute.org/news/enabling-coronavirus-detection-using-crispr-cas13-open-access-sherlock-research-protocols-and

印象的だったのは、さらにその先、として遺伝子編集システムCRISPERを活用した検査キットの可能性が紹介されていたこと。遺伝子編集ツール開発Mammoth Biotechsや、ペーパー検査キットを開発するSherlock Bioscienceなどが、集合知を活用した次世代ツールキットの提供システムづくりを行おうとしている動きだ。まだ、実験段階で認可されているものではないが、今後パンデミックが広がる中で、医療体制が十分ではない国に対しての解決策の提供になりうる可能性がある。

SHERLOCKは、CRISPR-Cas13酵素を活用し、ウイルスやがんなどのバイオマーカーを検出するものだ。インフルエンザ検査キットのように、リトマス試験紙のようなペーパー検査キットに上記のようなラインが表れることで結果が目視でき、診断が正確で早いのが特徴。事前準備としてサンプルを処理する必要があり、これにペーパーをひたすと、5分以内に結果が表示される。
検出手順やガイドRNAの配列などがPDFファイルで公開されており、addgeneのページにはキットの素材入手方法なんかも記載されている。コロナウイルスのサンプルを保有する世界中の研究者は、公開された情報を参照して、診断キットを活用することが可能になりそうだ。(引用:https://techable.jp/archives/117505)

また、Mammoth Bioscienceは、遺伝子の編集・改変技術CRISPER-Cas9を応用して、診断技術への応用を発表していたが、今回、30分でコロナウイルスの検出ができるフローを確立したと発表した。(ホワイトペーパーはこち

Mammoth Bioscience社の検査キット(ホワイトペーパーより)

このようなプラットフォームは、まだ無認可で実験段階のものだ。だが、今回のような危機のタイミングで、臨床にどの程度活用が可能なのかが注目される。これは、全く専門外の筆者ではあるが、場合によっては通常ではありえないスピードで現場で認可、実験されるようなケースも起こる可能性もあると思う。

使えるものから未来のものまで、簡易検査キットの活用は今後少しずつ広がってくるだろう。ソフトバンクの孫さんが、一瞬出して引っ込めた簡易検査キットの仕組みはまさにこの辺りの最新テクノロジースタートアップのサービスを日本に持ち込もうとしたのではないかと想像できる。しかし、これらのソリューションは、まだ大規模に導入するだけのエビデンスがないものもある。特に、日本の感染初期ステージには、検査数を増やしすぎないことが医療へのキャパシティをコントロールする上でとても重要であり、簡易検査キットの偽陽性は、医療崩壊のリスクにもつながりかねないため、あの時点では「天の時」を見誤った施策だったのだと思う。

パンデミック化しグローバルでの正確な対策をしていくためには、グローバルレベルでの実態の把握はより重要度を増してくる世論も広がっていくと思われる。簡易検査キットの広がりは、「陽性になった人の心理をしっかりとコントロールし、自宅待機、もしくは、医療機関にアクセスする」という体験・システムデザインとともに、近い将来に必ず設計・実装されるだろう。逆に、この辺りの検査と人の心理をセットにした体験デザインは、医療専門家だけではなく、デザイナーが活躍できる領域だと思う。

③ワクチン・創薬
伝染病に対する対策の本丸は、ワクチンだ。現在は、集団で抗体を作ることで、新規の感染者のスピードを減らすという戦略が取られているが、ワクチンはその抗体を増やすことができるため、開発が待望されている。ただし、最低1年以上はかかると予測されており、そのスピードをいかに早められるか、というのが目下の注目ポイントだ。

3/17に中国政府は、ワクチンの臨床試験を開始し、治療薬としては日本の富士フィルム社が開発したアビガンの投与の方針を決めた。アメリカでも同様にワクチンの臨床試験が始まっている。

中国政府によると、アビガンは重症患者以外のコロナウイルスの症状に効果があることから、実際の臨床で投与していくことが決められたという。これは、まだ臨床での使用が始まった段階ではあるが、もし効果があることが確認できれば軽症患者については、自宅待機をしながら薬の投与を行うことでしっかりと治療することが可能となり、上記の簡易検査キットの導入の際の一つのソリューションとなりうる可能性がある。

ワクチンや創薬のスピードを上げるためのテクノロジーも待望される。

そこでいくつか注目したい動きを紹介しよう。
まずは、ワクチンの開発ではVaccitech社の動きだ。英国オクスフォード大学で発見された最新ワクチン技術を使って、様々な病気に応用できるワクチンを開発している会社だ。非病原性のウイルスベクターを用いて、抗原タンパク質を発現させる方法が開発されてきている。この技術を用いる場合、発現させる抗原タンパク質は病原ウイルスのタンパク質、がん細胞のタンパク質など、ウイルスベクターに依存せず様々な病気へ適応できる技術となる。
インフルエンザ、MERSだけではなく、前立腺ガンなどへの応用についても研究開発がされている。まだ、コロナウイルスについての応用についてはアナウンスはないが注目したい。

vaccitech社のHP:https://www.vaccitech.co.uk/

また、AIの文脈では、AIによって創薬開発スピードをいかに上げるかという議論がずっとなされている。香港のAI創薬会社Insilico Medicineは、ncov sprintというサイトを公開し、新型コロナウイルスを治療ターゲットとして動作する可能性のある6つの分子化合物 を無料公開した。


Tech-in-Asiaの記事の中で、CEO Alex Zhavoronkovは、「短期的には、HIV向けの薬品などを投与しつつ、長期的にはウイルスに直接効果のある薬を開発する必要がある」と述べており、AIによる創薬を世界を巻き込みながら開発していくことを掲げている。85人のサイエンティストと、AIの「想像力」と、強化学習技術によって、4日間で、6つの分子化合物が特定できたという。今後は、これをSynthesize・Testすることによって実証していくフェーズに入っていく。かかるコストは、Sythesizeで2000ドル、臨床実験で10000ドルから15000ドルで、50日以内に新たな薬が作れるという。

なお、日本で感染を遅らせる上で有効とされているクラスター対策については、紹介されていなかった。シンギュラリティ大学自体が、感染対策での実務家ではないためという要因が大きいと思うが、海外での認知度が少ないという背景も大きそうだ。日本政府が実施しているクラスターによる知見については、封じ込めをせずにスピードを遅らせる、戦略であり。海外メディア等で世界的に共有する価値があるのではないかと感じた。

テクノロジーは、実装されて初めて意味がある。シンギュラリティ大学のサミットでは、以前からAI、3Dプリンティング、デジタルバイオロジーなどのテクノロジー分野が実装可能になっていたが、社会的に実装されていなかったことが課題であり、今回の機会にヘルスケアシステムや、ライフスタイルや教育などの社会システム、政治システムについてもアップデートをするべきだという。まずは、防疫という観点からどんなテクノロジーが活用可能なのかについて紹介したい。

第一回目は、コロナウイルスがパンデミックになることで、ウイルスとの戦争に動き出した世界におけるテクノロジーのツール化やその先にある我々が持てるかもしれない武器について紹介した。これは、「今をどう戦うか」という話だ。次回は、After Coronaに向けての社会変化の動きについて、テクノロジストのビジョンの視点から紹介したい。

KUNITAKE SASO

TEXT BY KUNITAKE SASO

東京大学法学部卒。イリノイ工科大学デザイン学科(Master of Design Methods)修士課程修了。P&Gにて、ファブリーズ、レノアなどのヒット商品のマーケティングを手がけたのち、ジレットのブランドマネージャーを務めた。ヒューマンバリュー社を経て、ソニークリエイティブセンター全社の新規事業創出プログラム(Sony Seed Acceleration Program)の立ち上げなどに携わったのち、独立。B to C消費財のブランドデザインや、ハイテクR&Dのコンセプトデザインやサービスデザインプロジェクトを得意としている。『直感と論理をつなぐ思考法』『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』 『ひとりの妄想で未来は変わる VISION DRIVEN INNOVATION』著者。大学院大学至善館准教授。

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