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[対抗文化の新都より vol.2]
モビリティの効率化が生む余白

今年に入り、ヨーロッパでは様々な都市でシェアリングE-Schooterがローンチされた。ベルリンでも今年の夏に入り、Circ, Tier, Bird, Lime, Voi各社が実験的にE-Schooterをローンチした。もともとベルリンは、自動車、バイク、自転車のシェアが盛んな都市であった。E-Schooterを乗る観光客や若者の姿が見られる一方で、実際、地元民はあまり利用していないという印象も持つ。割高な価格設定、話ながら並走したり、二人乗り、飲酒運転など交通ルールを無視するような運転からの事故の増加、雑な乗り捨てによる本体の故障、ハード面での維持コストが高いなどサービス維持のためには様々な問題を抱えているのも現状であり、どこまでこの市場が続くのかなと思いながら見ている。

今回は、ベルリンの生活の中における移動手段から見えてくる気づきを深掘りしていきたいと思う。

ベルリンの日常の交通手段

日常生活での移動手段の一つとして、ベルリンでは自転車を利用する人が多い。ベルリンに長く住んでいる人は自家用車を所有している印象がある。他の大都市と同様、基本は自転車と電車・地下鉄・バス・トラムなどの公共交通機関を使いわけ、必要に応じて自動車やバイク、自転車のシェアを選ぶという形が多い。ちなみに、ベルリンでは、バスは毎日24時間運行、金土日は全ての公共交通機関が24時間運行している。公共交通機関が、ベルリン市内(ABゾーン)のチケットで一回2.8ユーロとそこまで安い金額ではないので、使う回数によっては、近隣の移動は自転車に切り替えたほうが経済的にも移動手段としても便利という結論に至り、私もつい最近ロードバイクを購入した

自転車利用率の高いベルリン

ベルリンにおいて様々な乗り物のシェアサービスが浸透する中で、最近、カープーリングサービスが普及し始めている。カープリーングは、ドライバーの目的地に対し、同じ方向に向かう人と相乗りをし、かかった交通費をみんなで割り勘するサービスである。ヨーロッパのカープーリングサービスに関して、主に長距離移動の際に利用されるBlabla Carは、友人たちが使っていたので知っていた。2006年にローンチされたフランスのサービスBlabla Carは、都市や国を越える長距離移動が相乗りすることで安く移動できるので、旅行の際などに利用しているヨーロッパの友人が多い印象があった。自家用車で移動する人にとっても、同じ目的地に向かう他の人を乗せて、ガソリン代や高速代を節約しようというメリットもあり、2019年時点ユーザー数は7000万人で、22か国で利用可能だ。今年に入って、長距離移動の格安バスBlablab Busをローンチしたのも気になってはいる。こうしたヨーロッパで普及する格安バス、電車サービスに関してはまた別の回で綴って見たいと思う。

ベルリン発、カープーリングサービス注目株「BerlKönig」

最近、街中でよく見るようになったカープーリングサービスに、ベルリンの公共輸送会社であるBerliner Verkehrsbetriebe(BVG)と、Mercedes-Benz VansとアメリカのカーシェアサービスVia Incの合弁会社であるViaVanがローンチしたカープーリングサービスBerlKönigが挙げられる。その他にはClever Shuttleといったサービスなどがあるが、普及率ではBerlKönigのほうが上回る。

街中を走るBerlKönig
ドイツ語でKönigは王という意味なのだが、先日ベルリン市内に一台しかないというKönigin=女王と名付けられたレアバージョンBerlKöniginが迎えに来た。車内のシートも赤の革張りでスペシャル仕様。

カープーリングサービスはアメリカのLyft、Uber Poolをはじめ中国では滴滴出行など様々なサービスが利用され、時価総額7兆円にもなる会社もあり目新しい訳ではない。しかしベルリンでは、交通費にお金をかけない、タクシーを使う市民があまりいないことを念頭において読みすすめて欲しい。

友人たちが使っていたことがきっかけでBerlKönigを知った。「相乗りしたら電車よりも安いからこれで移動しよう」と言われみんなで一緒に使ったのが最初。Uberのように、現在地と行き先を入力すると、その行き先に向かうドライバーと乗客がマッチングされる。ただし、Blabla Carとは異なり、ドライバーはタクシーのようにこのサービスに登録し、BerlKönigのドライバーとしての教習を受け、専用の車両を運転しているので自家用車を運転する訳ではない。Uberに似た形式といえる。

相乗りする人の人数、距離にもよるが、1キロメートルあたりの価格は1.50ユーロで、乗車するユーザー間で分割でき、ピーク時の最低料金は4ユーロ。公共交通機関のチケットよりやや高い金額の設定だが、タクシーの半額以下、もし電車を乗り継ぐ必要がある、または複数人と割り勘して乗る場合はその金額より安くなる。相乗りのため、待ち時間、移動時間に時間がかかることもある。乗車、降車の場所も行きたい場所から少し歩くこともある。しかし、タクシーの代わりというよりも、公共交通機関の保管、徒歩、自転車、バイクの保管としてプロバイダー側もユーザー側も考えていることもあり、評判はまずまずだ。

BerlKönigアプリでルートを入れると利用可能なドライバーが表示される
ルートの途中にある青い丸で他の乗客の乗車・降車がわかる

使ってみると、予想以上に相乗りする率が高く驚いている。相乗りするユーザー層は20代から40代前半が多く、特にアプリを使いこなすデジタルネイティブ、深夜や早朝に街を歩き回るクラブカルチャーに精通したユーザー、スタートアップ層などにうまくフィットしている印象がある。相乗りする人たちや運転手は互いに、「調子どう?」「いい一日を!」と乗り降りの際に必ず挨拶をしあって心が和む。ある金曜日の深夜に乗車した時は、クラブに繰り出すおしゃれティーンたちと相乗りをした。ドアが開いた瞬間、車中には大音量でテクノミュージックがかかり、運転手も他の乗客もみんなノリノリ、即興テクノパーティーが繰り広げられていたが、それもベルリンらしい光景だなと笑ってしまった。

友人たちが使っていることが利用するきっかけだったが、そのあともBerlKönigを時々使うようになったのは、安価な価格で利用できること、意外にもベルリン市民が好印象で使っているイメージを持ったこと、そして環境に配慮しているという点が合致したからだろう。

環境配慮に特化し、都市のモビリティのサスティナブル化を目指す

BerlKönigは、BVGとViaVanがベルリン州からの許可を得て、公共交通機関の一部として2018年9月から4年間のテストプロジェクトとしてスタートした。興味深い点としては、環境・気候問題改善をコアとし、都市のモビリティのサスティナブル化、スマート化を促すために始められたプロジェクトでもあるという点。専用車両としてMercedes-Benzが電気自動車を提供し、車椅子用スロープを備えたデザインもある。

開始から約6ヶ月で、ユーザー数は140,000人、230,000人以上がアプリをダウンロード。10ヶ月で750,000以上の乗車依頼があり、車両の80%以上が同時に2人以上の乗客を乗せており、ピーク時には最大97%に上る。ユーザーのほぼ40%が月に3〜4回は使うという。2018年9月時点では50台の車両で開始したが、現在150台以上が稼働。現在の利用可能なゾーンは、Mitte、Kreuzberg、 Friedrichshain、Neukölln、PrenzlauerBergなどの中心部5000の仮想停留所がある。

2019年6月にストックホルムで行われたGROBAL PUBLIC TRANSPORTATION SUMMITの中のイベントの一つ、UITP AwardsでPublic and Urban Transport Strategy部門で賞を獲得。UITP Awardsは、過去2年間に世界中の都市や地域で実施された野心的で革新的な公共交通プロジェクトを紹介するアワードである。環境配慮の動きがユーザーニーズとバチっとはまった感じもあり、都市のモビリティ、ライフスタイルのデザインの仕方をいう視点から考えるさせられることがある。

最適化された車両と洗練されたアルゴリズムを組み合わせ、経済的にも環境的にも優しいサービスをユーザーに提供するというBerlKönigサービスの背後にあるノウハウは、Mercedes-Benz VansとVia Incの合弁会社であるViaVanから得ている。ViaVanは、ヨーロッパの革新的なオンデマンド公共交通サービスの大手プロバイダー。都市や公共交通機関との緊密な協力により、ViaVanは既存の公共交通ネットワークを補完および強化する動的なモビリティサービスを提供。厳格なルートとスケジュールを管理するシステムを用い、動的なオンデマンドネットワークを設計している。使用する車両には、システムに最適化されたアプリケーションが搭載され、アルゴリズムがリアルタイムで配車の必要性を分析し、利用可能な車両管理を行う。交通量の減少、都市におけるインフラの緩和、Co2排出量の削減は、カープーリングサービスを使うことで同じ数の車両でより多くの人を運ぶことを可能にする。ViaとViaVanは、2018年に、アムステルダムとロンドンの市場で類似サービスをローンチしている他、約20か国で80を超える打ち上げおよび保留中の展開を行っており、現在までに6,000万を超える車両を提供している。

郊外と都市部をつなぐfirst & last mile サービス

2019年秋には、ViaVanとBVGが一緒に取り組む2つめのシャトルバスサービスBerlKönig BCの実証実験が開始された。
BerlKönig BCは、既存の鉄道、地下鉄の公共交通機関の始点・終点となる駅の外側、つまり郊外に住むユーザーに対して設計されている。ベルリンには、Sバーン(鉄道)、Uバーン(地下鉄)が走っているが、U、Sバーン駅への最初と最後の1マイルの移動の補完になるシャトルバスをローンチし、乗客の移動よりスムーズにするという意図が組まれている。郊外に住むユーザーは、最寄りの公共交通機関まで車を使うという調査結果に基づき、都市インフラの緩和やCo2排出量の削減を目指した施策の拡張に挑む。

BVGがローンチした実験中サービスBerlKönig BC

最初の実験としては、SchulzendorfとZeuthenの一部とUバーンRudow駅をつなぐバスを運行させる。シャトルバスは通勤・通学時間帯である月曜日から金曜日の5時から9時、14時から20時に運行し、通常の公共交通機関BCゾーンのチケット50セント足した金額で乗れる。乗客は、最大1か月前までにBerlKönigBCモバイルアプリを介してバスを事前予約することができ、車椅子でアクセス可能な車両も用意されている。このプロジェクトには200万ユーロの投資が決まっており、LeegebruchとOberhavel地区、Heiligensee地区とUバーンAlt-Tegel駅、AltlandsbergとMärkisch Oderland地区とUバーンHönow駅などの区間での拡大を2020年までに追加することも検討しているという。BerlKönigがベルリン中心部のみのサービスから拡大する可能性も高い。

ViaVanは、すでに同様のfirst & last mile サービス(電車の始発、終点近くの郊外までをつなぐミニバスサービス)をイギリスの田舎町シッティングボーンのバスオペレーターArrivaとローンチしている。ArrivaClickでは、乗客の50%以上が自家用車からライドプーリングサービスに乗り換えて、通勤電車の路線を使っているという。リバプールとレスターでもArrivaClickはローンチされている。ロンドンでは、最近、ViaVanはTransport for London(TfL)およびGo-Aheadと提携して、都市郊外のサットン地区の公共交通機関にアクセスするための自家用車の使用を減らすことを目的とした需要対応型のバスパイロットを目指している。今年後半、ViaVanはHSL(ヘルシンキ地域交通局)とのサービスを開始し、ヘルシンキ首都圏の一部であるエスポーでのオンデマンド共有交通を利用して、通勤者とエスポー住民に効率的な公共交通機関の接続を提供するという。カープリングサービスはヨーロッパで拡大の動きを見せている。

ヨーロッパで注目が集まるMaaS

公共交通機関、徒歩、自転車、自動車に加え、各種シェアリングサービス、そしてカープーリングサービスなど、私たちの移動手段は格段に増えた。それら全てのサービスを網羅し、個々人の最適な移動手段を提唱するMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)にもヨーロッパでは注目が集まっている。電車やバス、飛行機など複数の交通手段を乗り継いで移動する際、それらを跨いだ移動ルートは現在も検索可能であるが、予約また運賃の支払いは、各アプリを使いそれぞれの事業者に対して個別に行う必要がある。MaaSは、スマートフォン等から検索~予約~支払を一度に行うことができ、ユーザーの利便性を大幅に高め、移動の効率化により都市部での交通渋滞や環境問題、地方での交通弱者対策などの問題の解決に貢献するというコンセプトから成り立っている。

Jelbiアプリ画面には利用可能な全ての交通手段が表示される

ベルリンでも、2019年6月にBVGがモビリティのテクノロジープラットフォームであるTrafiとMaasサービスのパイロット版Jubliをローンチした。Jelbiに登録すれば、ベルリンのあらゆるモビリティにアクセス可能。ルート検索、予約、支払いはすべてJelbi上で完結し、すべての移動とチケットを保管する。
パイロットフェーズでは、公共輸送システム全体と一部の民間シェアサービス、Nextbike(自転車)、Emmy(Eバイク)、Miles(車)、Tier(E-Schooter)を網羅。BerlKönig(ライドシェアシャトル)、e-キックスクーター各社をはじめ、更に25のプライベートトランスポートプロバイダーがサービスへの参加に関心を持ち、BVGとTrafiはより多くのモビリティオファーを統合したいと考えている。 

Jebliに関しては、まだローンチしたばかりで参画企業が市民が使っているメジャーなサービスが補完されていないので、浸透度がかなり低いのが現状。これからどうなるかというのが正直なところではある。

効率化から考える、ヒューマニティーを高める余白

ベルリンをはじめヨーロッパの各都市に拡大するモビリティのサスティナブル化、スマート化の動き。その出発点になるアイディアは私たちが早急に対応しなければならない環境課題の改善からきている。わたしたちが、環境にも優しく、最適な移動手段を利用できるようになったとき、結果として、より時間やスペースを自由に使うことが可能になるだろう。

最後に、移動の効率化がもたらす価値を議論する際に一つ着目したいのが、ベルリンに住むユーザーのライフスタイル、時間の概念という点だ。
移動の効率化にともない、創出された時間の使い方が都市やその社会の価値観で異なる点は興味深い。

ベルリンに住んでいて感じるのは、基本的に人々は1日のスケジュールにゆとりを持ち、多忙な予定の押さえ方をしない。(業種やその人のポジション、また個々の価値観によっては、仕事やプライベートの予定がびっしり詰まっている人ももちろんいる。)

東京でガツガツ働いていた身としては、ベルリンは時間の流れがゆるく、たまに何もしない余白の時間に対して焦ることもある。しかし、周囲を見ていると、基本的にこの余白の時間を大切にし、総合的に人として充実して生きることにエネルギーを注ぐ人が多い。人として豊かな時間を過ごすかということはオン/オフのライフワークバランスをきちんと保つということに繋がる。オフの時間は仕事から離れ、全力でオフを楽しむ。
仕事で、異なるIT企業や大企業のCEOたちに話を聞いた時も、プライベートの時間は仕事の時間と同等の価値を持つと話していた。こうした側面が意味するのは、効率化によって創出された時間にさらに仕事や予定を詰め込むといった考え方をする人が多くはないということ。人々の予定や時間は余白を含め、バランスを持って計画されていることを忘れてはならない。

先日ロンドンに行った時、時間の概念と効率化においてベルリンのとのギャップを強く感じた瞬間が度々あった。人々は仕事に追われ、時間に追われ、時間を捻出するためにテクノロジーを使い効率化を求める。しかし時間ができたところで、そこに仕事や予定が詰め込まれさらに忙しくなり、そのサイクルから解放されることはない。便利な世の中で常に自己、他者、取り巻く環境が消費されつづけていくようにも思えた。この辺りは東京にいた時の時間の使い方にも少し似ている気がする。

ベルリン市民の価値観がBerlKönigをどのように受け入れているかを紐解くと、東京やロンドンでの同様サービスの使われ方やその先にあるライフスタイルの違いが見えてくる。あくまで日常の交通の手段が一つ補間されて、シチュエーションに合えば使う。といった程度のフレキシブルな使い方にとどまっていてるのは面白い。

今後ますます、モビリティの効率化は進むだろう。ヨーロッパの例から、ユーザーのライフスタイルや価値観と環境課題の解決がどのようにフィットすることが望ましいのかについて考えことはもちろん、科学技術を用いた先に、生態系を守り、ヒューマニティーを高めるような余白を生み出すことがいかに大切かということも問われているのではないだろうか。

TEXT BY SAKI HIBINO

ベルリン在住のプロジェクト& PRマネージャー、ライター、コーディネーター、デザインリサーチャー。Hasso-Plattner-Institut Design Thinking修了。デザイン・IT業界を経て、LINEにてエクペリエンスデザイナーとして勤務後、2017年に渡独。現在は、企画・ディレクション、プロジェクト&PRマネージメント・執筆・コーディネーターなどとして、アート、デザイン、テクノロジーそしてソーシャルイノベーションなどの領域を横断しながら、国内外の様々なプロジェクトに携わる。愛する分野は、アート・音楽・身体表現などのカルチャー領域。アート&サイエンスを掛け合わせたカルチャープロジェクトや教育、都市デザインプロジェクトに関心あり。プロの手相観としての顔も持つ。

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