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[未来観光〜中国貴陽編 Vol.3-1]5G/Big Data社会の箱庭を歩く

街中にはBig data(大数据)のタイポアートが並ぶ。市民の機運を盛り上げる施策

社会人になってから、中国は遠い国になっていた。外資系消費財メーカーや、アメリカのシカゴでの留学経験などで、ある種欧米流のお作法を身につけた自分にとって、中国というのは、とてつもなく優秀な人がいるけど、仲良くなりにくいという印象を持っていた。特に2010年以降は反日などのニュースを見ながら、心理的にすごく遠い国になっていた中国に興味を持ったのは、世界の工場であった中国が、5GやBigdataの取り組みでむしろ世界でも最先端の社会実装が行われていきそうだという感覚を持ったからだ。今回訪れたのは、中国の最貧省として知られ、少数民族が多く住む貴州の貴陽市だ。中国の発展は、沿岸部から地方に移動していると言われているが、その中でもそこまで大きくない地方都市である。

僕と、中国の地方都市とは実は全く接点がないわけではない。大学時代の卒業旅行では、お隣の省、三国志の蜀の本拠地があったことでも知られる四川省成都を訪れ、チベットを旅行した。その時、現地のツアーに参加した時に、体調を崩して倒れた僕をおそらく同世代であろうスーチャンという女の子とヤオジイという男の子が助けてくれた。中国語をしゃべれもしないのに、体調を崩した僕を色々気をかけてくれた彼らと仲良くなった僕らは、そのまま、成都から小一時間ほど行ったところにある彼らの実家に招かれた。思わぬ出会いがあるのが、バックパック旅行の醍醐味だが、実家がその街でそれなりに大きな中華料理屋だった彼らから食べきれないほどの食事の歓待を受け、そのホスピタリティに感激したことを覚えている。彼女は廈門で旅行関係の仕事をするという話をして、廈門での再会を約束したものの、それっきりになっていた。しかし、若い頃の僕にとって中国の地方都市というのは、そんな良い思い出がある場所だ。その背景にある街は、中国のイメージを裏切らないものだった。街に並ぶ食堂と、ランニングシャツを着ているおじさん、そして、古い町並みに、お世辞にも綺麗とは言えないトイレなど。当時の中国は、バックパック旅行をしたらインドと並んでネタに出来るし、そのイメージを裏切らない場所だった。もう20年近く前のことである。

そういう意味で、今回の貴陽への旅は、僕は20年ぶりに中国の地方都市に来たことになる。結論から言うと、中国の底力と未来への旺盛な投資意欲を見せつけられた日々だった。デジタルデータ取得、政府レベルでのビッグデータの解析のインフラの整備がアリババ、テンセントらと行われ、5Gを街づくり、自動運転、ヘルスケアなどに活用する実験区がユニコムというキャリアと組んで実装されている。街中には、シェアの電動自転車や、自動車、スクーターがあちこちにあり、移動は、Didiを使うと大体数分で来るという下手したらUberより早い街へのシェアモビリティの実装レベル。顔認証によるロッカーや、自動改札も整備され始めている。アリババの経営する次世代型スーパーフーマーや、Lucking coffeeなどのデリバリー前提の食チェーンも複数お店を持ち、街には蔦屋書店ばりの超おしゃれ書店がある。

実は、貴陽は、中国の都市の中の「地方政府ネットサービス対応能力評価」では、深セン、抗州と並んでトップ3に入るイノベーションを積極的に推進する都市だ。中国人にとっては、夏休みに訪れる高原リゾートとして雲南と並んで出てくる街だから、いわば、那須高原と沖縄を足して二で割ったような場所なのだが、そこがイノベーションの拠点になっているのは面白い。

本稿では、上記の視点に合わせて、今回観た光を紹介していきたいと思う。

ビッグデータによる都市起こしをするビジネスマン的貴陽自治体政府

まず、最初に理解しておく必要があるのは、共産党による統制のイメージが強い中国だが、政治と経済は全く別の原理で動かされており、政府がトップダウンで法制度や政策を整備したら、各地方政府はその実現のために苛烈な競争を迫られるという法則だ。日本よりもよっぽど資本主義的で、地方政府はそれぞれ地域なりの個性を出しながら、世界中の投資や人を誘致をしようと動いている。自治体政府のオープンで、積極的に企業を助ける姿勢は、僕の印象では2000年代後半のシンガポールの政府関係者と会っているような感覚になる。

貴陽市は、もともとは、高度が高く涼しい観光地であり、ミャオ族など少数民族の村の観光で食べていたところだったという。主な産業でいうと、有名な白酒と調理料のみだった。確かに経済的には「何もない」場所だ。しかし、高地でappleのクラウドサーバーなども置かれていたことから、テンセントもクラウドサーバーを置いたりしつつ、クラウドを起点にしたビッグデータビジネスの先端の社会実装を都市起こし戦略として採用している。

2015年に政府がBig dataを活用する戦略を定めると、そのわずか1年後には、Big Data Exhibition Centerを作り、Big data産業の特区に指定されると、Big Data Expoを2015年に始め、2019年5月で4年目となります。Expoの規模は年々大きくなり、ジャック・マー氏(アリババ)、ポニー・マー氏(テンセント)、ロビン・リー氏(バイドゥ)などは昨年2018年の回に登場し、今年2019年は国連関係者、Paul M.Romer氏(2018年ノーベル経済学賞受賞者、ニューヨーク大学経済学教授)モロッコ参議院副議長など、国際的な規模に広がっています。

この中国の一つの省でありながら、一帯一路の戦略に乗ってグローバルのアライアンス戦略を練り、それを実装するというのが中国の興味深いところです。以下は、貴陽の政府の事務所にあった地図ですが、陸路は中央アジアへのルート、海路では東南アジアからインド、アフリカへ協業を広げていくという戦略を描いています。

州政府のオフィスに貼ってあったグローバル地域戦略
一帯一路とシンクした地域レベルでのグローバル戦略を立案している

特に面白いなと思ったのが、貧困解決のためのBig data活用という大義を掲げて様々なユースケースを作っているというところだ。例えば、貧困地域の物産を直接政府が持つオンラインECで販売できるようにすることで、その地域に直接お金が落ちるような仕組みづくりを行ったりしている。また、一人一人の貧困層について、どのような対策が取られているかを個人レベルで特定して共有されているデモが出ていた。最貧省であったからこそ、貧困克服という大義を提示でき、それによりBig dataシフトを進めるという、地域を巻き込む戦略なのだ。

食のバリューチェーンにおいても、日本でいうJAのような地域において誰がどの作物を作ったかというのが全てデータ化され、それが街中のスーパーで最終消費者に見えるような仕組みが出来ている。(日本でこれをやるのはとても大変だろうが)

食品Big dataを活用した食品流通の流れを可視化するダッシュボード

また、オンラインによる遠隔診療を推進することで、北京にいる専門医を地域の町医者と繋いで、貧困の原因にもなる医療の質の改善も推進している。これは、貴陽発の上場企業 朗瑪信息(LongMaster)政府の支援も受けながら、事業化を進めている。

貴陽の町医者と、北京の医者が、カルテやレントゲンを共有しながら、医療方針について相談する。
都市レベルでの医療が全国でできるインフラを作り上げている。
5Gになることで、遠隔で共有できる解像度が高くなることで遠隔医療の実装を狙っている

ビッグデータの活用は、使い手である企業や学校などの現場と、自治体のそれぞれがシームレスで動いていることによって価値を発揮する。

例えば食料や、医療なども、この省全体でどういう動きがしているかがリアルタイムに表示されることで、全体最適的な施策を立案しやすくなるし、一方でそのデータを活用することで新たなサービスを提供できるようになる。この二つが連携することで、全体最適と部分最適を両立しうる仕組みを作り得る、ということが、ビッグデータ産業が本当に価値を作れる局面だと思うし、その官と民の連携が圧倒的に起こしやすいのが、全体最適的な戦略立案を行う中国共産党と、民間と連携しながら競争原理の中で都市起こしをする自治体が補完的に動いている中国システムの妙だと感じる。

貴陽の自治体の海外連携担当と話している中で、ビッグデータを超えた次の強みとして、自然資源の活用や、自然保護などの話も出てきた。ビッグデータのインフラが整い、例えばドローンによる自然資源のトラッキング、解析などの仕組みが出来てくると、経済活動と自然資源の持続可能性を同時に最大化できるような仕組みも出来得るし、もしかしたら持続可能性に対する一つの施策になり得る仕組みが5年後にこの場所で出来ていてもおかしくないと感じた。

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