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[対抗文化の新都より vol.1-4]
ベルリン、オーガニックブームを超えた先にあるもの。

前回の記事では、ドイツ人のBio志向、環境意識の形成の歴史を紐解き、なぜ彼らがこれほどにもリテラシーが高いのかについて綴った。(前回の記事はこちら URL : https://www.biotopetide.com/?p=482)

オーガニック神話を鵜呑みにしない、ベルリンにおける地産地消のムーブメント

昨年行った若者の調査で、大量消費され安価なオーガニック製品が巻き起こす問題に目を向け、その裏で引き起こされるフードマイレージの問題、Bio製品自体の質への疑問が高まっており、地産地消を推奨する小売店やスーパー、そして農家さんたちから直接購入ができるストリートのオーガニックマーケットで購入しているという結果を知った。周囲の友人で環境意識の高い人たちにも話を聞いてみると、同じような意見を持ち農家さんから直接買うことを心がけているという。

そこで、地産地消の観点からもう一度自分の身の回りの環境を見直してみた。
まず行ってみたのは、LPG Bio Markt。1994年ベルリン市内で初めてのオーガニックスーパーマーケットチェーンだ。LPGはオーガニックスーパーマーケットチェーンの中でも信頼度が格段に高いと言われている。その理由は、地産地消とフードマイレージの考え方に沿って、ベルリンとその半径200km以内で生産された農産物しか扱わないという明確なポリシーを掲げている点にある。 またLPGは農家さんや商品の調達先と緊密な関係の構築、周辺地域の社会的、生態学的、文化的活動にも力を入れている。 現在ベルリン市内に10店鋪、2017年の売上は1247万ユーロ(約15億5900万円)、独身者の場合、毎月約17ユーロの会費を払うと、割引が受けられるシステムをとっており、会員は約2万7千人で、売上の8割は会員による。

今年で25周年を迎えるLPG Bio Markt
会員価格は通常価格の1割から2割ほど安い
プラスティック包装は一切ない。
Bioland, EU認証マークのあるりんご
バジル、ミント、ディルなどは鉢植えのまま販売
Demeter認証マークのあるりんご
卵の容器は再生紙。容器を家から持ってくる人もいる

店内を回っていると値札の所にRegional / lokalと書かれている商品を発見! かなりたくさんの異なるジャンルの商品に記載があって驚き。認証マークには意識がいっていたが、地産地消のサインは今まで見過ごしていた。どちらかというとベルリンは各メーカーやブランドがパッケージで過度にPRしたり、スーパーマーケットが Bioコーナーを作って販売促進するというよりも、Bioに対する認証マークや地消地産といった透明度が高い情報を商品にきちんと表示することで消費者の選択をわかりやすくさせる傾向にある気がしている。

実際ユーザーの声を聞いても「Bioというキーワードを広告やパッケージでアピールしてても、Bioって書けば売れると思っている気がして品質や理念に信用が持てない。」などと情報の不透明さから企業理念や品質に疑問を投げかけている。

続いて訪れたのは、オーガニック専門のベルリン市内、近郊の農家を始め、パン屋、服の職人、チーズ、惣菜、お肉、魚、ワイン、オリーブオイル、お茶など様々な商品を扱うオーガニックの個人商店が集まるストリートマーケット。毎週木曜日、土曜日に行われるこのマーケットは Bioの意識が高い友人数人からも比較的品質に信頼がおける生産者が集まっているとおすすめされた。ベルリンにはこうしたストリートのオーガニックマーケットが各エリアにある。フードマイレージの問題や環境によくない包装が気になる友人は、積極的に利用しているという。

地産地消の製品の中には、品質自体はオーガニックとほぼ変わらないが、認証基準を満たさない微妙な項目が含まれているがゆえに認証がもらえない製品もある。同じオーガニックでも認証マークがついた他国からの輸入品と認証マークはないけれどローカルで育てられた製品。こういったマーケットに来ると自分がどんな考えを持ちたいのかを改めて考える機会になる。

Kollwitzplatzのオーガニックマーケット

ローカルの生産者と消費者を結ぶ新たな取り組みMarktschwärmer

私の家の近所にもローカルのフードマーケットが火曜、金曜に開催され、買い物によく行っている。こちらはオーガニック専門ではないが、スーパーと違い生産者の人の顔が見えるのと、旬のものが並ぶマーケット。

近所にあるトルコマーケットの中にあるお気に入りのBio野菜を売る農家さん

その中でお気に入りなのが、Bioの野菜を売っている農家さんのブースだ。 この農家さんは、毎日ベルリンの異なるエリアで開かれるローカルマーケットで野菜や果物を販売している。自分の畑で取れた野菜や果物を丁寧に陳列している様子をみて、愛情込めて育てたんだろうなぁと思い、通い始めるようになった。 ある日、農家のおばちゃんが「あなたMarktschwärmerって知ってる?」と話かけてきた。

Marktschwärmerオンラインサービス
ベルリンだけでも9つの販売会場がある。週に1回1時間30分だけ開かれる

早速調べてみると、Marktschwärmerはオンラインでローカル生産者から商品を買うことができるサービスとわかった。

消費者はオンラインから自分の近所のエリアのMarktschwärmerを検索し、2、3日前までに商品を注文する。週1回、1時間30分の間、エリアごとにあるMarktschwärmerの会場で注文商品の受け渡しが行われる仕組み。 生産者は注文をうけた分のみ収穫し、決められた時間のみ販売にさくことができるので、販売商品の廃棄もなく、一日中路上に立ってなくてもいい。

そして、1時間30分の間はお客さんとの会話に時間が当てられ、自分たちの商品について熱く語ったり、意見交換ができるというメリットがある。生産者さんの話を楽しみにやってくる地元のお客さんも多いらしい。 消費者の事前注文から、売れ筋商品などを事前にアナライズできるので、作りすぎることもなく生産管理の向上にも繋がるという。消費者がリストにない商品を生産者に直接リクエストすることもできるという。 また生産者の人たちは少しだけ多めに商品を持っていくらしく、予約していない人もその場でいろいろなブースを巡り、地域のものを購入することができるそうだ。

各会場ごとに参加しているローカル生産者の商品をオンラインで注文可能。様々な食品、植物などが揃っている。

各会場ごとに参加しているローカル生産者の商品をオンラインで注文可能。 参加できる生産者の条件としては、ベルリンから約150キロ圏内にあること、規模が小さい生産者を特に応援している。上記が注文の画面の一例だが、野菜農家、チーズ工房、酪農家、ソーセージ工房、養蜂家、豆腐工房、製パン工房、花農家など1つのエリアのMarktschwärmerに様々な商品の作り手がバランスよく混在している。


Marktschwärmerのチームは生産者のセレクト、サポート、 PRを行ったり、地域コミュニティを盛り上げるイベントの企画も行っている。 生産者は18.35%のサービス料を売り上げからMarktschwärmerに支払う。Marktschwärmerはオンラインプラットフォームの向上、登録生産者のサポート、地域コミュニティの開発のためにこのサービス料を使用する仕組みになっている。元々はフランスで始まったと言われるこのサービス、2015年からドイツ国内でも取り組みが始まり草の根的に活動を伸ばしてきた。現在ドイツでは約40の都市700カ所以上、約8万人の利用があり、ベルリンだけでもエリア別9つの会場で実施されている。

私は、厳格なオーガニック生活を送っている訳ではない。生活のリズムに合わせてスーパーマーケットも利用する。

消費者としては、安価なオーガニック製品が選び放題という状況はうれしいが、オーガニックの歴史や意義を振り返り、ブームの背後にある課題を知った時に、環境に考慮した行動とは言い難い複雑な気持ちになる。 そしてふと思うのが、自分がどんな瞬間に心地よさを感じるかということだ。 仕事の帰りや休憩中にストリートのマーケットに並ぶ、近隣で作られた様々な商品を見るのは楽しい。生産者と顔を合わせ会話をし、ものを買うという些細でアナログな行為が心を穏やかにしてくれる。この小さなひとときが、環境保護にも繋がり、ローカルな生産者を応援し、近所のコミュニティを活発にさせるのであれば一石二鳥なのかもしれない。

科学の進歩によって、我々の生活の利便性ははるかに向上し、物質的な満足感は常に飽和し続けている。しかしそれによって、科学革命以前に重視されてきた精神的な文化の価値が軽んじられるようにもなった。ドイツのオーガニックや環境意識の歴史、そして現在の取り組みは、最先端技術をフル活用するような目新しさはない。市民が根底に持つ環境配慮への思想が、再びオーガニックの原点を自律的に見直そうとしている今、ドイツのオーガニックブームの先には、精神的にも物質的にも充実するような生きものらしさを重視した環境への取り組み、ライフスタイル、コミュニティの形成への挑戦がある。

企業や教育機関、地方自治体がアクティビストになる社会

最後に。環境やオーガニックに対する取り組みを日本で考えるとき、私たちはどのような視点を持つべきか。 オーガニック、環境意識が育った背景としてドイツは、近代化、科学の進歩で加速した効率と利便性を重視する風潮や工業化が引き起こした環境破壊に対し起こった市民運動が政策や教育に繋がった。思想から形成されたオーガニック志向なので、オーガニックに対する考え方が自律的で多様化している。ただでさえ、市民運動のようなボトムアップモデルが国を動かすというのが難しい日本。ましてや利便性や環境破壊に対して疑問を持って行動する人がどれくらいいるだろう。

最近、SNSで日本の友人たちがシェアしていたパタゴニアの取り組みを目にした。 パタゴニアのWEBサイトに行くと、地球のために選挙に行こうとの大きな言葉が表示される。   「若年層の投票率が低くなっていることを懸念し、パタゴニアは”私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む。”という新しいミッションのもと、今のままでは気候変動の危機とともに生きていくこととなる次世代に少しでも健全な地球を引き継ぐため、また、家族や友人、大切な人たちと語り合い、投票に行くパタゴニア従業員のために、投開票日に直営店全店を閉店することを決定しました。」

パタゴニアは、環境アクティビスト企業として、自社製品のリサイクル、環境助成金プログラムへの支援、フェアトレードの推進など環境的・社会的責任に対して様々なアクションを起こしている。本体がアメリカ企業なので、そういった理念を社会に実装していくことにも長けているのかもしれないが、もし、あらゆる企業が環境に対して目に見える形で行動したらどうなるだろう?

デモをする若者や市民がいなくても、今ある現状を見つめ直すようなモデル作りは可能だ。いつも買い物に行くお店や自分の働く職場、通っている学校、暮らす街の景色が変わっていくことは、個人レベルでの思想の変化にも繋がる。そのためには、企業や地方自治体、教育機関が掲げる理念の多様化、そしてその理念を社会実装できるかという点が求められてくるのではないであろうか。

TEXT BY SAKI HIBINO

ベルリン在住のプロジェクト& PRマネージャー、ライター、コーディネーター、デザインリサーチャー。Hasso-Plattner-Institut Design Thinking修了。デザイン・IT業界を経て、LINEにてエクペリエンスデザイナーとして勤務後、2017年に渡独。現在は、企画・ディレクション、プロジェクト&PRマネージメント・執筆・コーディネーターなどとして、アート、デザイン、テクノロジーそしてソーシャルイノベーションなどの領域を横断しながら、国内外の様々なプロジェクトに携わる。愛する分野は、アート・音楽・身体表現などのカルチャー領域。アート&サイエンスを掛け合わせたカルチャープロジェクトや教育、都市デザインプロジェクトに関心あり。プロの手相観としての顔も持つ。

Published inBerlinEcologyEurope対抗文化の新都より