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[未来観光〜アムステルダム編 vol.4-2]
循環型のライフスタイルを”Sexy”にするとは

今回は、循環型経済への移行を目指し、多面的に実験が進むアムステルダムにおいて、あえて政府やビジネス視点ではなく、衣=ファッション、食=食文化、住=移動などの生活者のライフスタイルにどのような変化が起こっているのか、旅人視点で感じた未来生活へのインスピレーションについて書いてみようと思う。

自転車大国が実現したシームレスなモビリティ

ヨーロッパの各都市はモビリティ革命の進展で、街歩きの移動が劇的にしやすくなっているが、この傾向はアムステルダムでも例外ではない。アムステルダムは海抜ゼロメートルの平地であることもあって、自転車道が一番整備されており、朝の通勤時間には、車にも勝る迫力で自転車の群れが迫ってくることから、自転車の数は人の数よりも多く存在すると言われる。

自転車道が右側、歩道は木があるため途中ではみ出ないと歩けないほど自転車優先

さらに、上の画像のようにタイヤが青色の自転車を見かける。これはSwapfietsという自転車リースのサービスだ。このサービスが面白いのは、サブスクリプションモデルがことごとく失敗してきたアムステルダムの中で、月間16.5ユーロを払うことで、マイ自転車を借りられる事業を成功させたことである。まさに、冒頭の循環型経済宣言ならではのビジネスモデルであり、購入する必要がないだけではなく、自転車の盗難や修理もサービスフィーとしてすべて上記価格に含まれているのだ。実際に、このサポートが入ったサービスは非常に人気であり、町のあちこちで青色のタイヤの自転車を見かける。

SwapfietsのHPより

このような自転車事業については、EU主導の実験としてスマートモビリティを進めるために880万ユーロのファンドがEUから登場した上で、E-自転車サービスのUrbee や Cargoroo向けの充電ハブ(E-hub)を整備する取り組みが進められている。シェアというと、利便性やエコが重視される印象があるが、電動自転車をスタイルに昇華させたことで有名なのが、電動自転車界のAppleとも呼ばれているVanmoofだ。

これが電動自転車??Dutchデザインの伝統を受け継いでいて、圧倒的にカッコいい

Vanmoofは世界の7カ国に拠点を持ち、日本でも表参道にお店が設けられている。Smart X、Smart Sという二つのモデルがあり、約40万円の購入オプションと月15,000円のサブスクリプションオプションの2つのプランがある。

基本的には、循環型経済の基本は飛行機の移動と、車の数を減らすというもの。そのための施策として、まずは自転車をさらに使いやすくして、さらに拡散していくのが基本になる。その上で、公共交通が整備され、コストや距離、用途に合わせて自転車<トラム<シェアカー<Uber<タクシーと複数の選択肢を活用できるようにするのがポイントだ。

自転車の他にもアムステルダムでの便利なサービスとして、地域を選べば停め放題のシェアカーがある。日本では、シェアカーの拠点を駐車場に設ける必要性があり、それが普及スピードを阻むボトルネックになっている。その一方で、アムステルダムでは、もともと自家用車のナンバーと近くの路上駐車できるスペースがリンクして、路上が駐車場として使われているため、自治体に協力してもらうことでカーシェアの路上駐車を可能にした。アプリで近くにあるダイムラー社のシェアカーサービスCar2Gofetchなどの車両を探してすぐ移動できることは、まるで自分で好きなように運転できる、即席のタクシー運転手になったようなものだ。

実際オランダ人は、合理的で倹約家(いわゆるケチな人?)が多いため、基本は自転車と、トラムでほぼ済ませながら、時々必要に応じて、シェアカーや、Uber、タクシーを使うようなライフスタイルが好まれているらしい。

これまで欧州で回った都市の中でも、アムステルダムはコンパクトであるうえに、移動できる手段の選択肢が多く、運河などの景色の変化もあるため、街を楽しめる環境が整っていると感じられる。

農業国が生む地球に優しい食スタイル

オランダは、実は世界第2位の農業大国でもあると言われる。国土面積は日本の九州ほどの大きさである一方、農作物輸出額は世界第2位だ。その秘密は、ジャガイモ、タマネギ、トマト、ニンジンという4種に集中と選択をすることで効率を劇的に上げていることから、トマトの農業生産性は日本の3倍とも言われる。とはいえ、正直なところ、さすがプロテスタントの国である。だいたいプロテスタントの国は食文化がイマイチなのだが、実際に体験してみるとチーズやトマト、人参などの食材は美味しいけれど味付けはシンプルで、日本人としてはそこまで心が踊る食ではない。

日本のように食文化のある国は、その味付けの深みを求めて、味の道に入っていくような方向を目指す。その一方で、現在のアムステルダムでは循環型の食スタイルが目指されていて、廃棄量の削減など環境負荷をかけないVeganスタイルと、そこそこ良い質の食事の両方を実現しようという、食文化のチャレンジを見ることができた。

廃棄ゼロ飲食店:InStock

まず紹介するInStockは、アムステルダム市内の東の外れにある廃棄ゼロのレストランだ。オランダ随一のスーパーAlbert Heijinのビジネスコンテストから生まれた新事業で、オランダ内に現在3拠点を持つレストランだ。

フェアトレード:TONY’S CHOCOLONELY

次に紹介するのは、オランダのどのスーパーでも見かける、派手なパッケージで一際目立つチョコレートがフェアトレードチョコレートとして有名なTONY’S CHOCOLONELYだ。普通のチョコレートの3倍近い値段(€3.05~) がするものの、現地では人気らしい。実際に食べてみると、甘味があるが舌に残らず後味が良い。とても美味しく、うちの妻には大好評だった。しかし、人気の理由は味だけではない。

TONY’S CHOCOLONELY
カラフルなパッケージは合計9種類

TONY’S CHOCOLONELYの創業者であるTonyは、チョコレート産業は現代版奴隷制によって成り立っていると言う。


「チョコレートの製造から販売までの流れは複雑です。数百万人のココア生産者がいて、数十億人の消費者がコーヒーを楽しんでいますが、中間業者の中には、ココアの購入価格を低く抑え利益を得ている者がいます。ココア生産農家は貧困の中で生活し、児童労働と現代の奴隷制を生んでいるのです。」

そこで彼らは、100%フェアな方法で生産されたココアを使うことにした。なんと、ココアのみならずトルコのヘーゼルナッツも、フェアトレードのものに限定しているという。生産者を搾取することなく正当な報酬を支払い、児童労働もなくなるよう、財団を運営しながら彼らは日々活動している。これらの理念を知るために、Webにアクセスすると、チョコレートの販売数だけではなく、この事業を通じて、5021ものカカオ農家と直接取引をしていたり、220万ユーロをカカオ農家に追加で還元できたと言う、フェアトレードのインパクトをしっかりと伝えており、意義を大事にするEthical Brandとしての姿勢を表している。

しかし、この商品は決して禁欲的な商品ではない。パッケージの表面は、チョコレートとしての魅力や美味しさをしっかりと訴求しながら、その裏面ではしっかりとビジネスの構造が描かれている。チョコレートのような美味しいものは食べたい。しかし、同時に倫理的でもありたい。過度に倫理的に見えず、人間の欲求と理性の良いバランスを取っているから、スーパーで売られるほどの人気になっているのではないだろうか。

Veganの食事:Vegan Junk Bar

3つ目の工夫は、Vegan食だ。これは別に1つのテーマで書こうと思うが、ヨーロッパの感度の高いミレニアル世代やその下のZ世代の間では、環境意識を持たないことはダサいという感覚があり、彼らの中でVegan食を提供するレストランやフードデリバリーが人気になってきている。その中でも、いわゆる、ホットドッグやフライドチキンなどのいわゆるJunk Foodを、動物性タンパク質を一切使わないで提供するというコンセプトで作られたVegan Junk Barというお店は、若者が行列するほどの人気がある。例えば、以下の食品は、一見ジャンクフードに見えるが、すべて植物性の食品で出来ていて、フライドポテトは大豆、刺身のように見えるものはコンニャクから作られている。食材の工夫とブランディングによって、Veganという思想を実現するレストランになっている。

Vegan Junk Bar

アムステルダムで感じたこの兆しは、いずれも社会意識の高い思想(Social Good)であるということ自体が若者の選ぶ基準になってきていて、それが顕著に現れるのが、食材やパッケージなどの食に関わる分野だということだ。

気候変動の問題は、2019年にNew Yorkで行われた国連気候アクションサミットをきっかけに日本でも話題になってきている。大量生産、大量消費による地球環境の過剰使用というモデルから、資源を再利用する循環型で持続可能なモデルに変えていくという、社会・経済のパラダイムシフトが進められているなかで、金融業界ではかなり踏み込んだ動きが起こっている(現代ビジネスのこの記事は一読の価値あり)。一部の環境活動家によるラディカルな動きを越え、EUや各国政府、自治体が一体となった、トップダウンによる大胆なゴール設定やインフラ整備がなされ始めている。そして、その活動を人々の日常に溶け込ませるような、衣食住移動のスタートアップやNPOがボトムアップで持続可能なビジネスモデルを展開する。このような新たな文化運動を起こすブランディングによって、若者を中心にライフスタイルと意識の変化が始まっている。

この変化は、以下のようなサイクルを辿ると考えられる。

活動家の運動→政府のゴール設定→企業のゴール設定→生活者のライフスタイル意識の変化→企業の事業の変化

循環経済のトレンドは、企業の社会的責任や事業の意義づくりという視点から、経営レベルではすでに日本でも広がってきている。次に生活者のライフスタイルの意識変化を起こすことは、企業の事業そのものの変化を促す変化のテコになると思う。

小泉進次郎環境相の「気候問題の解決は、セクシーに」という発言が注目されたが、筆者は全く同感である。今の日本においては、このような循環型の思想が「欲望と倫理のバランスよく、魅力的に」広がっていくことが必要ではないだろうか。

KUNITAKE SASO

TEXT BY KUNITAKE SASO

東京大学法学部卒。イリノイ工科大学デザイン学科(Master of Design Methods)修士課程修了。P&Gにて、ファブリーズ、レノアなどのヒット商品のマーケティングを手がけたのち、ジレットのブランドマネージャーを務めた。ヒューマンバリュー社を経て、ソニークリエイティブセンター全社の新規事業創出プログラム(Sony Seed Acceleration Program)の立ち上げなどに携わったのち、独立。B to C消費財のブランドデザインや、ハイテクR&Dのコンセプトデザインやサービスデザインプロジェクトを得意としている。『直感と論理をつなぐ思考法』『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』 『ひとりの妄想で未来は変わる VISION DRIVEN INNOVATION』著者。大学院大学至善館准教授。

Published inAmsterdamClimate ChangeEurope未来観光