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[未来観光〜アムステルダム編 vol.4-1]
世界の循環型社会の出島より

オランダといえばどんなイメージを持たれるだろうか?風車・水車、酪農、そして、飾り窓と大麻というところだろうか?世界で最もリベラルな都市、ヨーロッパのハブ空港という所だろうか。

ヨーロッパには、もう20回を超えて訪れたことがあるが、なぜかオランダには縁がなかった。欧州系のワークショップに参加すると、オランダは、北欧と並んで小さいけど頭のキレや、先進的な取り組みという意味で、ハッとさせられることが多い国だ。イエナプランなど個性や自律性を伸ばす教育の先進国であり、現在世界的に取り組みが進む気候変動に対して、CO2を減らした経済モデルを実装しようとしているが、その循環経済(Circular Economyと呼ばれている)では最もラディカルに実践が進む国でもある。そして、デルフト工科大学やアイントフォーフェン工科大学などの世界的に優れたデザインの大学があり、社会的なデザインや問題提起型のデザインなど、欧州の先端デザインの取り組みもなされている。今回、今まで経由しかしたことがなかったアムステルダムにようやく滞在することができた。

ヨーロッパの出島アムステルダム

アムステルダムに行かれたことのある人のうち、乗継だけしか行ったことがないという方も多いだろう。ハブ空港であるスキポール空港の印象からすると想像しずらいかもしれないが、オランダの首都であるアムステルダムは人口80万人のコンパクトな都市だ。いや、街という言葉の方が近いかもしれない。日本でいうと新潟市や熊本市くらいの人口規模になる。

アムステルダムの中心部を
コンパクトにまとめたオシャレな地図

アムステルダム中央駅を出ると、その目の前には運河が広がり、その横には巨大な自転車駐輪場がある。いかにも、「運河と自転車の街」だ。街を歩いていても徒歩での移動がしやすいほどにコンパクトだ。いや、むしろ自転車道が一番優先されているので、「自転車に気を使いながら歩く限りにおいては」移動しやすい、という方が正しいだろうか。街のあちこちには運河があり、街の景観はとても美しい。季節によっておそらく装いは異なるだろうが、10月の比較的寒くなり始める時期でも、太陽が出ている時は、散歩がとても気持ち良く感じられる。

中央駅から少し歩くと、有名な売春街「飾り窓」があり、その周辺では、合法的な大麻を吸えるコーヒーショップがある。マリファナの合法区は、コペンハーゲンの自治区クリスチャニアなどでヒッピー文化として経験することが多かったが、この地域は完全に街の中に同化している。そして、観光客らしき人がとても多く、生活感はあまり感じられない場所だ。(日本でいうと歌舞伎町を歩いているのが近い感覚だろうか)オランダ材在住の知人に話を聞いてみると、オランダ人でマリファナを吸っている人の割合はそのイメージとは裏腹に5%程のみで、このエリアはほとんどが観光客向けになっているそうだ。

この飾り窓やマリファナの印象はどこかアナーキーな匂いが漂うため、敬遠する人も多いかもしれないが、これらの取り組みは単にアナーキーであるわけではなく、オランダ人やオランダという場所の特性として、実は一貫性があるものだと言われる。

多くの旅人が到着するアムステルダム中央駅の改札を過ぎると
すぐスタバの横に運河が目の前に広がる

オランダは、もともと、海抜0メートルの所がほとんどだ。2019年10月に日本を襲った台風19号(通称スーパー台風Hagibis)で僕らが嫌というほど実感したように、海抜が低い地域に住むということは水害と隣り合わせの生活を送ることになる。そういう意味ではオランダは、成り立ちが海抜の低い地域に埋め立てて作りだした人工の下町であるため、その立地ならではのアウトサイダー精神がある。オランダは「(神ではなく)人が作った街」と呼ばれるが、まさに欧州の海辺の辺境に新たなモデルの街を作った、という人工国家的なDNAが、欧州でも有数のオランダのリベラルさの理由であるそうだ。

オランダ人が生み出した仕組み

水車・風車、株式会社と証券取引所、安楽死、大麻合法区、売春合法区。

これらが何のキーワードかお分かりだろうか?これらは、いずれもオランダが生み出した仕組みだ。

オランダ人は、人間の強いところも弱いところも見て「人が合理的に動くシステムをゼロから発明して実装する」のが得意だという。古くは、風車や水車という動力を使って、海抜ゼロメートルでも住める治水システムを作ったり、欧州有数の貿易港であったことから東インド会社を作り、そこから株式会社という仕組みを発明したり、その中で世界のチューリップバブルを経験し、投機を防ぐ仕組みとして証券取引所を作ったのも新しいモデルを作った例である。

マリファナや売春というと、日本ではアングラな印象が強い。けれども、人間が持つ性欲や、多幸感を求める欲望に対して、それらを違法化することが結果的に価格の高騰を招きアングラマネーの温床となるという視点から、むしろ合法にする方が結果的に変な依存にならないのではないか、という視点を持ちそれらを合法化しているのも、ある種の社会システム上の実験と言えるだろう。また、高齢化社会に向けて安楽死を合法化しているのもそうだ。そして、最近では、アムステルダム市が循環型経済の大きなゴールを設定し、新たな取り組みを進めている。こちらについては後ほど触れよう。

「論理的なオランダ人も、合理性は論理に勝る」

冒頭の知人の言葉で印象的だった言葉だ。オランダ人は議論をするが、必ずしも論理的に正しいものを決めるわけではない。正しさや人間の光だけではなく、ダークサイドも受け止めた上で、最適に回る仕組みを考えてやってみる。そういう意味で、合理的というのは、人間という生き物が行う自然な行動に合わせたモデルを設計すべきとオランダでは考えられている。社会における実験精神も旺盛だし、人間のマイナス面を捉えた人間性を考えていくためには、極めて良い場所になりそうだ。

循環経済の出島を目指す都市アムステルダム

アムステルダム市は、2015年2050年までに、できるだけ早い循環型経済への移行を目指した政策を発表した。

その冒頭の文章を紹介しよう。

「想像してみてください。あなたの家庭では、洗濯機を購入するのではなく、リースすることができる。建物は、すべて分解と再構築することで、新しい土地にそっくり住まいを移動できる。捨てられるはずだったコーヒーの搾りかすを使って、マッシュルームを育てる。

週の一部でしか使わない車を各家庭が一台ずつ購入するのではなく、地域の住民と一緒に数台の車をシェアする。これがサーキュラー・エコノミーの目指す世界です。」

これらを通じて、アムステルダム市は、以下の目標を掲げている。

・2025年:65%の家庭ごみはリサイクルまたはリユースできる仕組みで分別されること。

・2030年:使用される第一次原材料資源の50%削減

・2050年:完全な循環経済の達成

参考:

ヨーロッパの出島であるアムステルダムでは、上記のような衣食住をはじめとした、生活の基本的なスタイルを循環型の作り直していくための様々な取り組みがすでに進められている。例えば、世界的に海洋におけるプラスティックゴミの廃棄の問題へのアクションがすでにグローバル企業を中心に起こっているが、オランダではThe Ocean Cleanupという10代の起業家スラット氏が提唱する、海洋浄化アレイ(Ocean Cleanup Array)の設置による海洋プラスティックゴミ回収のシステムなどの新たなシステムの実証も進んでいる。この方法は船を使った回収より数千倍も速い上に、費用も安くあがるといい、向こう10年間で、北太平洋に渦巻くプラスチックごみの半分近くを回収を目指している。

例:オーシャンプラスティックなどのモデル

https://www.afpbb.com/articles/-/3020159?pid=14015874&page=2

https://www.businessinsider.jp/post-174841

また、循環経済を社会に実装するための拠点としてDe Ceuvelや、CIRCLなどのスタートアップエコシステムの拠点も設けられている。こちらについては、BIOTOPETIDEで小林が寄稿している記事に詳しく書かれているので見ていただけたらと思う。

Kunitake Saso

TEXT BY KUNITAKE SASO

東京大学法学部卒。イリノイ工科大学デザイン学科(Master of Design Methods)修士課程修了。P&Gにて、ファブリーズ、レノアなどのヒット商品のマーケティングを手がけたのち、ジレットのブランドマネージャーを務めた。ヒューマンバリュー社を経て、ソニークリエイティブセンター全社の新規事業創出プログラム(Sony Seed Acceleration Program)の立ち上げなどに携わったのち、独立。B to C消費財のブランドデザインや、ハイテクR&Dのコンセプトデザインやサービスデザインプロジェクトを得意としている。『直感と論理をつなぐ思考法』『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』ひとりの妄想で未来は変わる VISION DRIVEN INNOVATION』著者。大学院大学至善館准教授。

Published inAmsterdamClimate ChangeEurope未来観光