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【After Coronaの世界 vol.1-1 】新型コロナウイルスが中国にもたらした新たなデジタルライフ

本連載では、BIOTOPE中国トレンドをリサーチするメンバーの LIN HENGCHENG(林恒成)が、中国出身の視点から新型コロナウイルスがもたらした中国社会の変化についてリサーチした。武漢をはじめとした都市の閉鎖が迫られる非常事態の中、外出禁止令によって国民の生活が圧迫されている一方で、以前から政府・生活者双方のデジタルシフトが進んでいたため、新型コロナウイルスによる諸問題をデジタルの力で解決しようとする企業の推進力や課題に対する柔軟な生活者の行動力は、デジタルライフの向かう先を指し示しているように感じられる。中国の新しいライフスタイルの兆しについて、いくつかの事例を紹介しながら次世代のデジタルライフを考察していく。


2019年12月31日、中国がWHO(世界保健機関)に武漢における原因不明の集団感染発生を報告して、WHOが2020年1月30日の「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」宣言まで、新型コロナウイルスは中国だけではなく、世界中に蔓延し、各国に感染が広がりつつあり、パンデミックへ発展するリスクも高くなりつつある。

その中でも日本は中国と地理的に近く往来が多かったことから、シンガポールと並ぶほどの大きな影響が及んでいる。新型コロナウイルス感染者の数が日々増加し、ダイヤモンド・プリンセス号の乗客を始め、日本全国で確認された新型コロナウイルス感染者数は455人(2020年3月10日時点:ただしダイヤモンドプリンセスを除く)に達している。対して、中国全土で確認された新型コロナウイルス感染者数は8万735人(2020年3月9日時点)に達している。

新型コロナウイルス不況の深刻化によって日本社会が不安に陥っている一方で、新型コロナウイルス感染が深刻な中国では、新型コロナウイルスを経験した中国の人々の心に新たな変化が萌芽し、新たなライフスタイルの兆しが生まれている。未だ感染が拡大している日本社会にとって、中国で起こるあらゆる変化は様々な示唆に富み、今後の日本社会が対策を考える際の重要な役割を果たすはずだ。さらに、これは人々のライフスタイル変化の予測にも有意義な手かがりになるに違いない。本記事では、新型コロナウイルスによって起こった生活者の「デジタルコミュニケーション」について事例を紹介している。


中国のデジタルコミュニケーションの新しい変化

中国全土の外出自粛によって、リアル空間でのあらゆる活動が停止し、感染予防のために生活のあらゆることがデジタルに移行している。中国では、新型コロナウイルスをきっかけに新たなデジタルコミュニケーションが生まれ、ライフスタイルにおいてもリープフロッギングが起ころうとしている。

①SNSを使った市民によるデジタル支援活動

新型コロナウイルスの初期段階における支援活動は政府主導型だった。しかし、生活必需品の需要が、商業施設での供給や政府の救援対応のキャパシティを超え、生活者への対応で後手を踏んでいた。そこで、生活者はSNSを通じてお金(義援金)や医療資源、生活必需品などを調達することで、生活者同士の助け合いが行われた。

  1. 支援物資の配送状況が可視化されて支援感覚を高めるUX「Weibo 微公益」

新型コロナウイルスによる肺炎が蔓延する中国湖北省の医療現場でマスクや防護服、医薬品といった医療物資の不足が深刻化する中、国内外から寄せられた支援物資の窓口となっている武漢市の赤十字組織に対して、「物資が倉庫に滞留し、現場に届いていない」「分配が不公平だ」とSNSに批判が上がり、市民からの信頼が失われた。

そこで、医療物資の未配送問題を解消するために、SNSサービスを提供するWeiboで、支援物資の配送状況が可視化された支援専用クラウドファンディングが開設された。サービス開始から1ヶ月で中国内の芸能人やSNSインフルエンサーを中心にフォロワーから募金するようになり、世界各地から購入した物資が武漢に届くようになった。

クラウドファンディングで一定の支援金が集まり、支援物資を購入して新型コロナウイルスが深刻な地域に配送した時の物資購入明細や物資の配布状況が、Weiboに可視化される。つまり、あらゆるユーザーは支援の行方を確認できるようになっているのだ。支援活動に対する支援金を募集する際は、ユーザー認証が必要になっている。支援金は、1ユーザーあたり1元(16円)から気軽に興味あるプロジェクトに支援することができて、集まった支援金の利用明細と物資の配布状況は同サイトで12時間ごとに更新されて追跡することができる。2020年3月5日まで、すでに159万人がWeiboにおけるクラウドファディングプロジェクトに参加し、約72億円の資金調達が実現された。

2. 人手が不足する病院に対して、情報発信を通じて支援する生活者「Weibo」

新型コロナウイルスの感染者が中国全土の病院に溢れかえっている中で、持病のある患者や怪我などの新型コロナウイルス以外の病患者の医療資源を確保できなくなっている。政府は本当に医療が必要な患者の把握や病院の混雑情報の発信などに手が回らなくなっている。SNSサービス「Weibo」では、市民達は病院の混雑状況や病院に不足している医療資源情報の発信を行うことで、市民が一丸となって患者対応に追われて人手が不足する病院を支援している。

武漢の生活者のみならず、全国の生活者もSNSを通じて中国全土の病院のサポート活動を行なっている。ユーザーは特定のタグがついている内容をリツイートする手段を通じて、助けを求める投稿の表示アルゴリズムの優先度を上げ、救援物資などが必要な病院の社会発信を支援している。この行為によって、多くの社会資源が政府を経由せず、Weiboを通じてマッチングされている。具体的な例として、新型コロナウイルスが治療できない病院にいる他の重患者に対して、生活者がWeiboを通じて治療できる病院を紹介して連携したことや、新型コロナウイルスに感染した独身老人がWeiboを通じて発見され、ボランティアによって近くの病院に運ばれたことなどが起こっている。

②デジタル学校、新しい相互的な教育方法への移行の兆し

日本政府は小中高校を一斉休校したが、中国も同様に全土の学校が休校の措置を取っている。中国5,000万人の学生と60万人の教師は、Alibabaのエンタープライズコミュニケーションアプリ「DingTalk(釘釘)」のライブストリーミング機能を利用して、旧暦春節の長期休暇後の中国の学校再開に合わせてオンラインクラスを開講した。

中国の従来の教育では、学生を強制的に教室に集めているため、教師は知識を正確に学生に伝えることが最大の目的だった。しかし、新型コロナウイルスによって半ば強制的に遠隔教育を実施することになったことから、教師が学生の学習態度を管理/指導することが難しくなってしまった。むしろ、強制的に学習する環境下で厳しく指導する指導方針では学生がサボってしまうことが問題になっており、いかにして授業に興味を持ってもらえるかが遠隔教育でも生徒が継続的に受講してもらうために必要なことであることだと言われている。中国の教師たちは動画共有サイトなどで配信活動を行うライバー(日本で言うYoutuber)のノウハウを活用し、新たな相互的な教育方法を模索し始めている。

「DingTalk(釘釘)」とは、オンライン会議機能、チャット機能、タスク&人員の管理、クラウドストレージなど様々な機能が充実している業務管理グループウェア。2019年5月から教育に向けて特化版が開発された。Slack+ZOOM+インスタグラムストーリーの質問スタンプ+グーグルオフィスソフトであり、パソコン、携帯、タブレットなどデバイスを問わず全機種が使える。

先生と学生は各自のDingTalkアカウントを持ち、slackのようにクラスごとのDingTalkチャンネルを作成する。そして、先生がDingTalkチャンネルでオンライン授業をビデオ通話のように開始する。そして、授業中に先生はリアルタイムで全ての学生、あるいは特定の学生とコミュニケーションすることもできる。学生の画面の真ん中が質問とストップウォッチが表示されカウントダウンされる。回答は先生や担当者の操作に合わせて自動で画面に表示され、双方向の授業が実現される。授業終了後の課題もDingTalkを通じて学生の個人アカウントに対して簡単に送信することができる。そして、クラウドサーバーでAIが答えの正誤を判断し、過去のデータ変動などを可視化した答案を先生に送る。

遠隔教育の導入は初めてで、先生は新たなシステムの使いに慣れていない一方、学生がまだ旧暦春節の長期休暇から戻りたくないと言う本音もある。導入段階では、学生から先生にスタンプを連続的に送り、授業を妨害するようなトラブルが多発していた。しかし、その後一部の先生は教育方針を変え、ライバーのノウハウを活用することで学生から人気を獲得し、授業をスムーズに進行できるようになった。

授業をライブ配信する教師

近年、ライブ配信プラットフォームの普及やTikTokをはじめとするショート動画アプリケーションの浸透によって、中国のZ世代から見たライバーの存在感は日本の若者におけるYouTuberと同じような存在になっている。新たに浸透する遠隔教育では、人気のあるライバーたちのノウハウを活かすことで、授業を双方向のコミュニケーション(対話型)にしながら、学生の興味関心などに紐付けることで知的好奇心をかきたてることで、遠隔でも学生のモチベーションを維持しながら教育することができる。

中国の小学生たちは「休校になるかと思ったら、Dingtalkのせいで授業があるじゃないか」とアプリストアのランキングに怒りの一つ星評価を連打し、DingTalkの評価は4点台から1.3に急落したこともあった。しかし、先生たちの工夫によって、オンライン授業を「面白いライブ配信」として捉える学生の数が増え、SNSでも「〇〇先生のライブ配信が面白すぎる」などのタグが人気トレンドランキングに入るようになっている。アプリストアの評価点数も2.6に戻り、学生による高評価の数が増加している。

※出典(ヘッダー画像)
新京報網 2020/02/07 「一位自由摄影师眼中的武汉:疫情下,人性在」より

後編につづく。

TEXT BY Kohzo Hirose

東京大学法学部卒。イリノイ工科大学デザイン学科(Master of Design Methods)修士課程修了。経済産業省にて、再生可能エネルギーの導入推進や雇用・教育制度改革、経済産業省の組織・働き方改革に、従事。大企業や社会でイノベーションを起こしやすいエコシステムをいかにつくるかに関心を持ち、デザインスクールに日本の国家公務員として初めて留学。政策立案・実施にデザインシンキングをいかに活用するかを主眼に研究。現在はJETROイスタンブール事務所にて、トルコ・イスタンブールを拠点に、中東 、コーカサス、中央アジア、中東欧等と日本との産業協力の創出に向けた調査・プロジェクト業務等に従事。

TEXT BY RUIKI KANEYASU

株式会社BIOTOPEにて新規事業開発、ビジョン開発、ブランド戦略を担当している。ミレニアル世代向けフィンテック新規事業開発、「モビリティ×街づくり」ビジョン開発と新領域事業開発、消費財企業が持つブランドの存在意義(Purpose)から新たな事業戦略創造などのプロジェクトを手がけてきた。行動観察手法(定性)と定量解析(定量)を組み合わせて、生活者、都市や文化のインサイトの導出や企業やブランドの存在意義を起点に中長期的な事業機会探索(Purpose Management・CSV領域)を得意としている。

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