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【After Coronaの世界 vol.5-1】欧州グリーンニューディールの理想と現実

2020年5月27日、欧州委員会は2019年12月に発表したグリーン・ニューディールと呼ばれる環境問題への対応策にコロナ禍の復興支援策を追加した政策を提示した。

この3日後の30日には、米国の民間企業SpaceX社による初の民間有人宇宙飛行が成功した。

この欧米2大陸での動きはコロナ禍以前から計画されていたものではあったが、同じ週に未来に向けた動きのタイミングが重なり、欧州と米国の歴史が動くその瞬間に居合わせたような感覚があった。

世界中でこのコロナが収束したとはまだまだ言い切れず、クラスターが各地で発生し第2波とも言われている(2020年8月中旬現在)。こうした激動の最中の世界の様子をみながら、特に欧州グリーンニューディール政策について感じること、これからわたしたち人間がすべきこと・考えるべきことなどを綴っていきたいと思う。

欧州のグリーン・ニューディール政策について簡単に少し紹介をしておくと、大きくわけて3つの柱がある。

  1. 温暖化対策目標の引き上げ
    2050年まで温室効果ガスの排出ゼロを目指す「欧州気候法」を軸に、1990年比40%削減としている現行の目標値を50-55%へ引き上げることや、具体策として炭素国境税の導入などを検討している。
  2. サーキュラーエコノミー (CE) に向けた産業政策
    2019年12月に発表されたこのグリーン・ニューディールのそもそもの核は、欧州のサーキュラーエコノミー(循環経済、CE)への移行に向けた政策であった。その中でも2020年3月に発表したサーキュラーエコノミーの行動計画や、欧州の産業戦略としてのスマートモビリティ分野やデジタル分野での底上げが図られている。
  3. 持続可能な投資支援やファイナンス計画
    コロナの復興支援策を含めて7500億ユーロの予算を提案。このうち5000億ユーロは返済義務のない補助金として、2500億ユーロは返済義務のある融資として扱うことが検討されている(5月27日時点)。

この政策を確実に実行および実現するためのワーキンググループ「グリーンディール・ゴーイング・ローカル」が発足した。目的に地域の意見を確実に反映させること、炭素中立性を推進するための欧州各機関の協力などを掲げている。6つの委員会と6グループに分かれ合計13名のメンバーで構成されており、フィンランドからは、ヘルシンキの隣のエスポー市と北部の都市のオウル市の議員が加入している。

こうした欧州委員会の動きにあわせて、フィンランド政府基金の研究機関であるSitra(シトラ)は、経済的ショックからの回復を支援するとともに、生態系の持続可能性の危機の解決を促進するための一連の対策として「コロナショックに対する7つの持続可能な回復策」を提案した。

具体的には、
①公共支出への資金投入
②産業の民間投資の支援
③税額控除の増額による家庭用エネルギーの再生エネルギーへの切り替え推進
④持続可能な投資に対する財政的支援の一時的増加
⑤運輸業界への補助金はエネルギー効率が高いものから提供
⑥洋上風力発電などの国内再エネへの投資奨励
⑦これらの税制改革は、コロナ危機収束後は環境税と消費税の増税で補う
これら7つの方策が示されている。

このように、世界は復興に向けて動き始めたけれど、いくつか政治的な懸念材料があげられていた。まずは、EU史に残る長時間の会議の末に決定した、復興基金の重み付けの内訳だ。2020年7月21日のEU首脳会談の合意内容によると、返済義務のない補助金は当初予定されていた5000億ユーロから3900億ユーロへ削減、返済義務のある融資額2500億ユーロは3600億ユーロへ増額となった(下図の青色部分の内訳)。

この背景には、EU加盟国間の利害対立がある。資金力のあるドイツやフランス、コロナによる経済的被害の大きかったイタリア、スペイン、ポルトガルなど南欧諸国は多額の補助金に賛成の立場をとった。これに対し、財政規律を重視し緊縮財政国と言われるオーストリア、オランダ、スウェーデン、デンマークのいわゆる倹約4カ国とフィンランドは反対。過去のギリシャやイタリアの経済不況時の教訓から、被支援国の将来的な経済的自立のためには返済義務が不可欠であり、補助金額をコンパクトに抑えるべきだと主張した。特にフィンランドは輸出額の60%をEU域内市場に頼っており、南欧諸国が仮に自立できず経済破綻を起こせば、自国の対外貿易や国内経済にまで大きな影響を受ける可能性があるため、そのリスクを抑えたい思惑があった。

加えて中欧・東欧諸国は、被害の大きい南欧に比べて失業者は少ないもののGDPも南欧に比べて低いため、南欧への過度な資金流入を抑えるため資金の入手条件の変更を主張した。

こうした各国の情勢を考慮しながら欧州議長が妥協案として上記の額を提示し、加盟国はようやく合意に漕ぎ着けたのだった。実に5日間で90時間を要した歴史的なEU首脳会談は、無事に終了した。

加盟国27ヵ国の承認を得て喜ぶ欧州委員長Ursula Gerturd Von der Leyen(ウルズラ・ファン・デア・ライエン)氏(左)と欧州理事会議長Charles Michel(シャルル・ミシェル)氏。
従来の握手したりハグ(抱き合う)したりするスタイルではなく、

コロナ後の挨拶の表現としてひじを付け合わせるエルボ・タッチが今回の首脳会談でみられた。
これからの国際社会におけるグリーティング・スタイルとなるだろうか。
復興パッケージの内訳。
右側の青色部分は、復興基金7500億ユーロ(金融市場からの調達資本として)。
そのうち、返済義務なしの補助金3900億ユーロと、融資としての3600億ユーロが割り当てられた。
左側の水色部分は、2021-2027年の年間予算1074億ユーロ。
黄色の枠は、7年間で合計1兆8240億ユーロの復興パッケージと中期予算額を示している。

他の懸念材料としては、資金調達の正当性への批判がある。この復興支援策は、政府資金を投入して経済的リスクを民間企業から公的予算に移すことで、民間投資を奨励することを提案している。しかし、これは実質的にはリスクを軽減できず、企業や個人投資家の利益を守りながら欧州市民一人ひとりにリスクを転嫁するだけだとの見方もある。通常、EU全体の経済政策では加盟国の拠出金と域内共通の付加価値税などの財源を基に予算が組まれるが、今回の上積み分は欧州委員会が債券を発行して市場から資金を調達することが予定されているからである。同委員会の民間資本への傾倒は、加盟国内外での不平等を激化させるだけではないかとの危惧もある。

また、環境保護団体は、公的資金が、復興パッケージに汚染産業への投資を回避する保証が組み込まれなかった点を指摘している。復興計画の合意では、すべての支出の30%を気候変動対策に充てるべきだとしている。しかしこの指摘は、合意内容には環境汚染に加担する企業や産業を補助金受給先から除外するプロセスが不足しており、このままでは公的資金で汚染産業を支援し続けることになると警告している。

実際に最近の調査では、EU資金が化石燃料に400億ユーロ近く投入されているのに対し、クリーンエネルギーでは290億ユーロにとどまっていることがわかっている。

環境保護団体は、グリーン・ニューディールが真のグリーンで公正な復興につながるのか、それとも「グリーンウォッシュ」に隠された化石燃料と廃棄物を多用する現在の経済システムを定着させるのかを測るために、以下の3つの基本的なテストを行っている。

①既存の化石燃料および廃棄物生産システムを維持しているか?ー過剰消費、廃棄物・汚染の排出を続け、環境破壊的で社会的に搾取し続ける産業を維持しているか?

②すべての人々に平等な社会であるか?ー社会的弱者の支援や所得格差、失業者救済に取り組んでいるか?

③基本的な権利ー民主主義、人権などの基本的な権利の尊重、法の支配がEU資金や支援制度を付与するための前提条件になっているか?

こうした政治的な懸念材料がある中で、この政策が実際の生活の中にどう落とし込まれていくのか、身近なレベルで想定されることを市民の視点でざっくりとみていきたい。

例えば自然エネルギーの家庭での利用について考えてみる。著者が住むフィンランド南西部の首都トゥルク市の地元のエネルギー会社が提供する太陽光発電システムを利用する場合は、組み立て作業にかかる家計費の税額控除を受けられる制度がある。2020年は控除率が40%になる予定なので、政府はこの制度を利用する世帯を増やしていくことが考えられる。しかし、家庭への導入には現在の控除対象である組み立て以外にも住宅の設計の変更が必要になる場合もある。また、太陽光発電システムだけでは住宅エネルギー効率が充分ではないことが多いため、現実的には複数のエネルギー源の併用が必要で、導入推進にはエネルギー補助金など他制度との組み合わせが求められる。これらの点を踏まえると、一概に世帯数を増やしていくのは難しいだろう。今後数年間の税額控除の増額幅も行く末を左右する要因になるだろう。

電気自動車(EV)については、充電ポイントを商業施設ではちらほらみかけるようになったが、公共および一般住宅ではまだまだだ。環境対策が進むこのような状況下で、EV充電のインフラ整備にも拍車がかかるのだろうか。日常的な利用のためにはEVの購入と充電インフラ整備の両方が同時に必要であり、両方への十分な支援がなければ市民にとってはそもそも敷居が高いだろう。

一般住宅全体での再生エネルギーへの切り替えについては、民間住宅投資として供給支援が行われるのだろうか。現在、同市では市の中心地の広場(Tori)の改修工事に誘発され、市内各地で住宅の建築ラッシュが起きているが、建設中の住宅を見ている限り、太陽光パネルなどのエネルギー関連設備は全く見られない。現実的な施策としては、建設が済んでから、後追いでグリーン住宅ローンとして供給支援が行われるのだろうか。

また市の広場の改修工事に着目したときの一番の懸念は、駐車場の増加である。現在、市内中心部には18カ所の駐車場と多くの路上駐車所が点在している。改修後には、地下2階建ての立体駐車場が完成し、少なくとも600台の車が駐車可能になる予定だという。立体駐車場の建設目的は、車で中心地へのアクセスを改善するためとされているが、一方でグリーンモビリティとしての自転車や徒歩でのアクセスを重視するもある。一部では、中心部の車をすべて地下へ集約して地上は歩道と自転車道のみにし、わずかな路上駐車所が駐輪場へ改修される計画もあるようだが、EVの充電インフラ整備などの再生エネルギーインフラ整備の計画などはなく、今後も既存の駐車場および路上駐車の運営が継続される見通しだ。

広場に新設されるパビリオン。
カフェやイベントなどが運営実施できる場として、
2段階の入札制度を導入し2021年から運営開始を予定している。

このような大掛かりな地下を含む都市開発を実施する目的および計画の内容を見るとグリーンニューディール政策の柱となるサーキュラーエコノミーとの乖離があると感じる。自転車や徒歩でのアクセスを部分的には確保する(つまり「局所的な」スマート・グリーンシティ)ものの、街全体としては既存のインフラを残したままで再生エネルギーインフラなどの整備は導入されない見通しだ。また、大規模建設にともなう建設廃棄物の発生および処理管理の不徹底さなどの懸念もある。建設関連については2020年9月に「リノベーション・ウェーブ」という建築リノベーション投資イニシアチブが開始される予定であるため、それ以降の動向を見守りたいと思う。

このように、欧州グリーンディール政策が実現される可能性は、日常生活の範囲では部分的にその余地があるものの、フィンランド全体、さらにEU全域という規模では必要な時間や金額の多さや調整の困難さの面でやや難しいと感じる。今回まとまった7500億ユーロの復興基金は、政策の柱にある気候変動対策やデジタル化など長期的な優先事項に重視されるため、内訳額については加盟国で承認できたが、短期的な改善に向けた実際の足並みが揃うかは不透明だ。

今回は、国・地域の政策レベルでの動きを見ながら、実際の市民レベルでの感覚をみてきた。次回は、コロナによって発生した国・地域の独自の動きや変化、そしてフィンランド人の心境などをみながら、本質的な生活の変容について考えていきたい。

Tokiko Fujiwara-Achren

TEXT BY Tokiko Fujiwara-Achren

フィンランド在住。専門はサステナビリティレポートなどの非財務情報開示。
移住前は、日本の海運業界(邦船・外船)にて主にマネジメント系の業務に携わる。その後、学生時代から関心のあった環境・社会問題の解決に携わるレポーティングコンサルタント会社へ転職。プロジェクトマネージャーとして、多くの日本企業のCSR/サステナビリティ活動支援に携わる。
移住後は、専門分野に取り組みながらフィンランドに関するコラムをはじめ、大学・研究機関のサーキュラーエコノミー・プロジェクトなど地元の活動に参画している。最近の関心ごとは、Transition Design(持続可能な社会に向かうための新しいデザイン研究・実践分野)や複雑な問題の解決策や創造性を生み出す対話型アプローチ。2018年より、日本へサーキュラーエコノミー を普及するためのプラットフォーム「Circular Economy Lab Japan」https://circular-eco.com/を共同運営中。
自身のホームページ→「今と未来のあいだ」https://actokin.com/

Published inAfter CoronaEuropeFinland