Skip to content

【After Coronaの世界 vol.5-2】コロナ禍による変化と、その先にあるもの:フィンランドからのメッセージ

前回の記事では、欧州で進むグリーンニューディール政策について、著者の住むフィンランドを中心に、国・地域の政策レベルでの動きと市民レベルでの感覚をご紹介した。

それを踏まえて今回は、コロナ禍に伴うフィンランドでの変容について、国際的な視点、フィンランド人の視点、著者個人の視点を交えて紹介し、少し先の将来を想像してみたい。

国際的な視点からわかる変化

国境を越えて広がるコロナ禍によって、フィンランドとその周辺国をめぐる地政学的な変化が始まっている。まず挙げられるのは隣国スウェーデンからの影響だ。日本でも報道されているように、スウェーデンは感染対策として集団免疫の獲得を狙い、都市封鎖や行動制限を行わずに平時と同様の行動様式を継続してきた。その結果、本記事の投稿時点(2020年8月中旬)現在の感染者は8万人を超え、死亡者の数はおよそ5800人に上っている。これは周辺諸国と比較しても突出した数字だ。。

北欧5ヵ国の感染者数(8月20日時点のデータ、出典:https://yle.fi/uutiset/3-11300232)。
上からスウェーデン、デンマーク、ノルウェー、フィンランド、アイスランドを示している。

フィンランドをはじめとする周辺国からすれば、感染拡大防止のためには自国だけにとどまらずスウェーデンからの感染経路もケアしなければならない状況になっている。北欧地域では6月ごろから緊急事態宣言を解除する動きが始まったが、各国はスウェーデンとの国境だけは不要不急以外の入国制限を続けている。また8月に入っても、フィンランドとスウェーデン間のクルーズ船のスウェーデン側のチケット販売が中止されるなど、ヒト・モノの移動が制限される状況が依然として続いている。

北欧各国の内務大臣などは今回の対応で従来の国家間連携に影響はないとしているものの、この状態が続けば経済交流や人の往来に変化が現れるのは時間の問題であり、北欧地域内での国家間関係への影響は避けられないと考えている。

こうした国際的な変容は、北欧地域だけにとどまらない。フィンランド元大統領のタルヤ・ハロネン氏のコメントで、米国を中心にしたこれまでの地政学的関係が変化するとの考えを語っている。曰く、今まで米国は世界のリーダーとして台頭してきたが、このコロナ禍で甚大な被害を受けたことで、米国は世界秩序の中心としての立場を失いつつあり、世界の多極化が進むという。米国と中国の間に挟まれた縮小経済圏である欧州にとっては、この状況は今後のグローバルな地位を検討するためのチャンスだとも述べている。

その欧州域内でも、コロナ禍を契機にEUそのものの存在意義に疑問を呈する声が上がりつつある。特にその引き金となったのが、前回の記事で紹介した、欧州復興基金の重み付けをめぐる国家間対立である。各国の抱える現状と狙いを背景に、基金の配分をめぐる議論はその決着に歴史的な長さの時間を要した。それにより加盟国間での姿勢や要望の差異が明確になったことで、EUという共同体自体の妥当性や価値が問われ始めているのだ。北欧、中欧、東欧、南欧とそれぞれの情勢を抱えながら、多数決で民主的な意思決定が行われ、加盟国内それぞれと連帯するような、より緊密な方向への発展を望むのか、それとも各国が自国の利益を守り資源を奪い合うような展開が続くのか。今後EUが向かうべき道をめぐる議論がはじまっている。

このように、北欧、欧州、そして世界全体のそれぞれのレベルで秩序が変化する予兆が現れており、政治や経済の動きから今後も目が離せない。

フィンランド人が感じた変化

続いては、このコロナ禍を通じてフィンランドの人々がどのような変化を感じ取ったのか、具体的な感覚をご紹介したい。企業や教育現場でのITの整備が進み、また人口密度も比較的小さいなど、フィンランドでは日本と異なる社会環境が存在する。そんな中、彼らはどのような変化を感じているのだろうか。

まず、Demos Helsinkinというシンクタンクによるイベントから、全体的な傾向を見てみよう。「アフターコロナの世界における新たな変化」と題されたこのウェビナーには750人が参加し、その約8割がフィンランド在住者であった。イベント内で主催者からいくつかの質問が投げかけられ、参加者が回答するシーンがあったが、その内容を以下に簡単に示す。

Q1 : 現在の危機によって最も増幅される傾向はどんなものか?

A : デジタリゼーション、ローカリズム、レジリエンス、不平等、メンタルヘルスへの障害など

Q2 : 個人消費においてどのような変化があるか?

A : 飛行機利用の削減、生産・消費の削減および本質的な購買へ、地域のサプライチェーンやビジネスを支援、DIY文化の増加など

Q3 : 今日からできることは?

A : 現況、または新しい世界へ向けて自分自身の適応力やマイルールを見直す、常にポジティブでいる、地域のビジネスや食を支援し続ける、次世代と一緒に学ぶなど

日本と異なるだろうと考えられる点は、「不平等」や「メンタルヘルスへの障害」「マイルールを見直す」だろうか。特に「マイルール」は、日本の社会ではなかなか個人の目線で考えたり活動したりすることは少ないだろう。

続いて、より個人的・具体的な感覚をご紹介しよう。知人の男女4人に、コロナの影響でどのような変化を感じているか聞いてみたところ、以下のような回答が返ってきた。

  • リモートワークは以前から取り入れていたのでさほど大きな変化はなかったが、子どもの遠隔授業との兼ね合い(小学低学年生だとPC作業が不慣れなためサポートが必要)と、この状況が数ヶ月続くことでの住環境への問題(仕事と日常生活の空間の仕切り)が出てきた(40代・2児の男性)
  • 医療機関で働いているため、この3月~5月は珍しく残業もありかなり辛かった。こうした感染症がこれからも続くとなると、自分の仕事や人生を考える必要が出てきた。以前からやりたかったことをやろうかなと思い始め、少しずつ動き出している(30代・シングルマザー)
  • リモートワークはとても快適。友人に直接会えないけれどオンラインを通じておしゃべりできるし、そもそも家で過ごすことが好きなので今の状況はそこそこ満足している(20代・独身女性)
  • 自分の人生に今のところ大きな影響や変化は出ていないので感謝している。人が動かなくなってCO2排出量削減に効果が現れているが、社会的不平等については非常に心配。ベーシックインカムの導入や意図的なCO2排出量削減などの持続可能な社会に向けた一歩を踏み出すチャンスだと思う(40代・独身男性)

フィンランドはもともと自宅で過ごす時間が長いので、コロナ禍の自粛時間はそれほど苦にならないと思っていたところ、だいたい想定内の意見が多かった。

続いて、フィンランドに暮らす中で感じる、人々の活動や関心の変化についても触れておこう。

まず目立つのは、コテージ需要の高まりだ。感染対策で、人々が都市部から離れた自宅で過ごす時間が増えたことで、郊外のコテージの人気が高まっているようだ。

従来からフィンランドは建物等を自作するDIYの文化が根付いていることもあり、40歳以上の経済的余裕のある人々の間では、コテージを購入するのではなく自作してしまう状況が、従来より増えているという。

一方、20代の若者の間では、コテージをレンタルする傾向が現れているようだ。今までのように友人・知人たちと一緒に外食や娯楽を楽しみたいが、その空間や場所が制限されていることが背景にある、とオンラインのコテージレンタルサービス会社の担当者は話している。同社のデータによると、インターネットでの同社サイトの検索数が3〜5月には例年同時期の数値よりも111%増加していたという。加えて、レンタルしたコテージなど郊外への安全な交通手段として、レンタカーの需要も伸びているようだ。安全面から公共交通機関での移動を避けて、昨年と比較して需要が15-20%増加している。

レンタルコテージ
コテージや海や湖の傍にあるサウナ小屋
コテージ目の前の桟橋。ここで魚釣りやボートなどが楽しめる。レンタルコテージの平均的な相場として、2週間でおよそ600ユーロ(コテージのみ)

そしてなんといっても、このコロナ禍で一番人気だったモノは、自転車であった。

レンタカーと同じく公共交通の代替手段として需要があり、特に500〜2000ユーロの価格帯のマウンテンバイクが一番の売れ筋だったようだ。フィンランド国内での生産販売が追いつかず、海外からの仕入れもコロナ禍による人手・部品不足の影響でサプライチェーンが難しく、あっという間に売り切れ状態になってしまったという。

他にも、バーチャル・ツーリズムや自然環境への関心が高まっている。もともと自然環境への関心が比較的高い傾向にはあったが、特に若者の間でキノコやベリー狩りなどの人気が上昇し、ある調査ではこの年代の国立公園や保護地域への関心度が昨年の11%から30%へと増加したというデータがある。

コロナ禍による変化から未来を想像する

これまで、国際的視点、フィンランド人の視点、そして生活者の視点から、コロナをきっかけとした変化について紹介してきた。こうした生活の変化や人々の感情を踏まえて、これからの経済のあり方や仕組みに想いを巡らせると、個人の活動とそれを起点にした地域での営みが増えてくるのではないか、と考える。
コテージ需要の部分でDIY文化について触れたが、それに代表されるような、自分で何かを作り出すこと、その作り出したモノやサービス・仕組みなどを自分の身近な人や場所で共有することがさらに盛んになるのではないか。すると、ある程度の地域コミュニティができあがり、個人の営みが地元・地域経済につながりやすくなる。その際には、今までのような貨幣の交換ではなく、各自が作り出したモノやサービスそのもの同士を交換する物々交換エコノミーのようなものも想像できる。自分が作り出したモノやサービスが周囲の人々やコミュニティに受け入れられると、個人の満足度や幸福度が高まり、それが広がれば社会全体として人間の豊かな営みがつくられるのではないかと思う。

また、身近な範囲で活動することによって、従来の大規模なサプライチェーンの見直し、ひいてはグローバル化した資本主義の見直しにもつながると考えられる。 “Think Globally, Act Locally”と言われて久しいが、この激動の時代を生き抜くためにこのキャッチフレーズはまさに相応しいと感じる。

コロナ禍からの回復に際して、理想的な社会を目指した新たなパラダイムが生まれてくるだろう。その中では国や企業組織のレベルに限らず、やはり一人ひとりが抱えてきた従来の生活への違和感や拒否感にこそ、これからの新しい社会を作り出すための知恵が隠されているのだろうと思う。

その知恵の一つとして、人類とウィルスの対立ではなく、人間を自然界の一部と捉え直して、人間の利他性を見つめ直してみることが必要なのではないかと思う。

気候変動などの環境問題は、自然界における人間社会の空間が拡大してきた近代において引き起こされたものである。今回のコロナウィルス流行による経済活動の減退や移動の減少によって、その事実が改めて明白になっているからだ。

毎年7月ごろに獲れるビルベリー(通称ブルーベリー)の写真(著者撮影)。
森のいたるところに実がなり、誰でも好きなだけ獲ることができる。今年は例年に比べて豊作となった。6月の天候がよかったこともあるが、コロナで人やモノの移動が制限されたことも影響したのあろうか。

2020年は、間違いなく時代の変容がはじまった年と言えそうだ。そんな時代に生きているわたしたちは、一人ひとりが考え続け、それを仲間と共有したり実際に行動したりすることで少しずつ変化を生み出していけると考えている。

従来の意識・行動変容や価値観にも変化が現れ、それがだんだんと大きなうねりとなり社会や世界がより良い方向へと変わっていくことを切に願いながら、この文章が読者一人ひとりが考えること・できることについてのヒントになればと思う。

Tokiko Fujiwara-Achren

TEXT BY Tokiko Fujiwara-Achren

フィンランド在住。専門はサステナビリティレポートなどの非財務情報開示。
移住前は、日本の海運業界(邦船・外船)にて主にマネジメント系の業務に携わる。その後、学生時代から関心のあった環境・社会問題の解決に携わるレポーティングコンサルタント会社へ転職。プロジェクトマネージャーとして、多くの日本企業のCSR/サステナビリティ活動支援に携わる。
移住後は、専門分野に取り組みながらフィンランドに関するコラムをはじめ、大学・研究機関のサーキュラーエコノミー・プロジェクトなど地元の活動に参画している。最近の関心ごとは、Transition Design(持続可能な社会に向かうための新しいデザイン研究・実践分野)や複雑な問題の解決策や創造性を生み出す対話型アプローチ。2018年より、日本へサーキュラーエコノミー を普及するためのプラットフォーム「Circular Economy Lab Japan」https://circular-eco.com/を共同運営中。
自身のホームページ→「今と未来のあいだ」https://actokin.com/

Published inAfter CoronaSocietyその他