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[対抗文化の新都より vol.1-2]
ベルリン、オーガニックブームの先にあるもの。

前回の記事では、ドイツのオーガニックの基本事情について綴った。(その記事はこちら) 今回の記事では、ドイツのオーガニック市場にある光と影に迫る。

拡大するオーガニック市場の光と影

JETROの調査によると、2018年のドイツのオーガニック食品市場の売上は109億ユーロ(約1兆3625億円)を超えたという。ドイツで発売された飲食品の約4分の1(25%)がオーガニック商品で占められている。

ドイツ・オーガニック市場
出典 : JETRO ドイツのオーガニック市場データ

2014年からの5年間でオーガニック市場は約40%増加している。 オーガニックを取扱う飲食店・小売店のシェアをみると、最大のオーガニックのスーパーマーケットチェーンはAlnaturaグループ全体の売上は8億2200万ユーロ(2017年10月〜2018年9月)、2位はDenn’で4億400万ユーロ(2017年)、3位はBio Companyで1億5700万ユーロ(2017年)、4位がBasicで1億4200万ユーロ(2016年)、5位がEbl Naturkostで7890万ユーロ(2017年)、6位がSuper Biomarktで5740万ユーロ(2017年)である。

Bio食品に対する一人あたりの消費は消費者年間116ユーロ(2016年)、ちなみにEU28か国の平均は60ユーロ。イギリスのマーケティングリサーチMintelによるとドイツ人の約4分の3(72%)は、Bio製品を購入したいと考えているそうだ。

オーガニック市場の拡大を受け、ここ数年で、特に一般のディカウントスーパーマーケットでの売上が大きく増加が顕著になってきている。ドイツの低価格ディカウントスーパーマーケットAldiが60以上の新しい自社ブランドのBio製品を追加したのを筆頭に、競合であるEdekaも自社ブランド「Edeka Bio」の拡大を計画、2018年10月には競合のLidlがBiolandと提携を発表。加熱する低価格合戦に対抗し、先にも述べた高品質のBio製品の信頼の証である認証マークを持つBiolandの商品の展開を計画している。これに対抗したAldi、Rewe、Tegut、Edeka、Pennyといったドイツの主要ディスカウントスーパーマーケットはこぞって低価格のBio商品の品揃えを謳った広告合戦を開始した。

ディスカウントスーパーマーケットにおける低価格のBio製品の売り上げの拡大は、よりBio製品を私たちの生活に取り入れやすくした。しかし、一方で、消費者はBio・オーガニックという言葉の安売りや消費行動への過度な誘発行為から、質ではなく利益重視の方向に進む傾向や、もともとBioが持っている持続可能性と環境に優しい生産という思想などに疑念を抱いている。「安くなりすぎるBio製品は信用できない」「基準が高いと言われている認証マークの協会がディスカウントスーパーと手を組んだのであれば、彼らがこだわっていた思想自体も崩壊したのではないか」という声も一部の消費者からは挙がっている。

また、連邦農業省の調べによれば、Bioがドイツで大ブームとなった2003年から2010年にかけて毎年有機農家全体の3.3%に当たる600軒以上の農家がオーガニック農業を辞めていったという。3分の2は通常農業に戻り、残りの3分の1は離農したそう。 これだけ消費量、消費者の数が上がっているのに、生産者が離れていくのはなぜか。 その理由の一つに、Bio製品の低価格化が挙げられる。

食品にもよるが、Bioは手間ひまがかかる。厳選された土壌管理や原材料、人件費などにかかるコストを計算するとBio製品は通常製品の75%以上高くなるそう。しかし実際に店で比較してみるBio製品とそうでない製品の価格はそれほど変わらない。ドイツはオーガニック志向が強い国でもあるのだが、ディスカウントスーパーの発祥の地でもあり、特に食べ物にお金をかけるという考え方が薄い国でもある。そのため、スーパーマーケットはこのオーガニックブームの裏でいかにBio製品の価格をそうでない製品に近づけるかが課題でもあったのだ。

その解決策として、人件費などが安価な東欧諸国からの輸入に頼っている現状がある。 例えばドイツの農家がオーガニック離れをを決断した裏側で隣国のポーランドでは、2004年から2010年にかけてオーガニック農地が531%も増加したという。加えて、オーガニック農家の生命線でもあった政府からの補助金が減らされ、バイオガスへの補助金が増やされてることも要因の一つである。農場の土地費の支払いのため、多くのオーガニック農家がエネルギー作物であるトウモロコシに転作してしまったのだ。
この事態は、消費社会におけるオーガニックブーム、市場の拡大に疑問を投げかけている。

オーガニックブームを超えた先にあるものとは?

安価なBio製品が巻き起こす様々な現状がある中で、私がベルリンに暮らしていて非常に関心した点は、生産者、消費者がきちんと現実に起こっている事態を見つめ、各々思考し、自分にとって価値ある行動を起こしていることである。

2018年に、あるクライアントさんと一緒にベルリンにおける若者のライフスタイル、カルチャー、社会問題、政治、消費行動などのリサーチを行った。この時に現在のベルリンに生息するであろういくつかのクラスターに当てはまる若者のお宅に訪問しインタビューを行った。
その中には、若者のオーガニックに対する意識を探るトークも含まれていた。このリサーチ結果で見えたことは、彼らはBio製品が溢れる環境に生活しているため、オーガニックの安売りをするような誇張行為=スーパーマーケットが謳うその情報そのものを信用していない、環境配慮、動物愛護の思想を見直した時に、オーガニックというよりも*フードマイレージの低い地産地消に関心が強いといった傾向だった

*フードマイレージとは : 輸入食糧の総重量と輸送距離を掛け合わせたもの。食料の生産地から食卓までの距離が長いほど、輸送にかかる燃料や二酸化炭素の排出量が多くなるため、フードマイレージの高い国ほど、食料の消費が環境に対して大きな負荷を与えていることになる。 

出典 : 中田哲也『フード・マイレージ-あなたの食が地球を変える』([新版]2018.1、日本評論社)pp.132~134

例えば、オーガニック思考が強く、質が高いものが欲しければ、ディスカウントスーパーではなくオーガニック専門のスーパーマーケットにいくといった選択をする。しかし、オーガニック専門のスーパーマーケットもやはり商業主義的な戦略に基づいて商品を販売し、自然の流れにそった商品展開をしない。また、先にも述べたとおり、オーガニックスーパもまた低価格競争に乗りつつあるので、品質への疑問や安価な人件費の他国からの輸入商品に頼る現状が広がっている。

このような流れの中で、意識の高い消費者はフードマイレージによって引き起こされる燃料や二酸化炭素の排出量が環境によくない、また輸送・販売中も鮮度を保つための薬品や包装が食品に使われることも環境を破壊する要因の一つと考え、地産地消を推奨する小売店やスーパー、そして農家さんたちから直接購入ができるストリートのオーガニックマーケットで購入するという行動にも移しているという。

Berlinにはエリアごとにオーガニック専門のマーケットが開かれている

実際ベルリンにはそれぞれのエリアでストリートのオーガニックマーケットが週に1〜2回開催されているのもあり、生活に取り入れるハードルはそこまで高くはない。 もともと、ドイツにおけるオーガニック志向の傾向は、環境配慮、動物愛護、健康志向に対する強い消費者の需要に関連していたこともあり、盲目的に「有機」「オーガニック」を信じ続け、魅力的に描かれる情報を消費するのではなく、どこの国のどんな品質のものでもお構いなく安さを追求する姿勢を取るわけでもない、市民の思想がここから垣間みえた。

この次の記事では、なぜベルリン市民がここまでオーガニックに対する意識が高いのかという謎を紐解いてみたい。

TEXT BY SAKI HIBINO

ベルリン在住のプロジェクト& PRマネージャー、ライター、コーディネーター、デザインリサーチャー。Hasso-Plattner-Institut Design Thinking修了。デザイン・IT業界を経て、LINEにてエクペリエンスデザイナーとして勤務後、2017年に渡独。現在は、企画・ディレクション、プロジェクト&PRマネージメント・執筆・コーディネーターなどとして、アート、デザイン、テクノロジーそしてソーシャルイノベーションなどの領域を横断しながら、国内外の様々なプロジェクトに携わる。愛する分野は、アート・音楽・身体表現などのカルチャー領域。アート&サイエンスを掛け合わせたカルチャープロジェクトや教育、都市デザインプロジェクトに関心あり。プロの手相観としての顔も持つ。

Published inBerlinEcologyEurope対抗文化の新都より