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[未来観光 vol.1 ヘルシンキ編]
MaaSの震源地にて、幸せな移動を考える

北欧というのは、不思議とオシャレな響きがある。

憧れを持つ人が多いし、実際にフィンエアーがヨーロッパで一番近いヨーロッパと謳っているだけあって、日本人の観光客もとても増えているらしい。それ以上に、中国からのツアー観光客が増えているのは世界のどこに言っても一緒だが。僕もその例外に漏れず、20代には憧れていた。世界一進んでいる教育システムや、森のイメージ、マリメッコに代表されるデザイン性などに憧れていた。もう10年以上前、20代に初めて行った北欧がヘルシンキだった。当時、初めてデザインコンサルティングの立ち上げをやろう、と準備をしていた時期だった。

夏のヘルシンキの空は美しい。カモメはいつも通りだが。

憧れに胸を躍らせながら初めて降り立ったヘルシンキ。到着してすぐ、その憧れは脆くも打ち破られた。時期は10月の終わり、街はずっと曇っていて、4時には暗くなる。宿は異常に高く、市内の中心部から離れたドミトリー型のホステルを一泊七千円で取るのが精一杯。ご飯は、どんなに安くても一食2千円で、その程度のお金で食べられるものははっきり言って劇マズだ。挙げ句の果てに、オーロラを見に言った北部の都市サーリセルカでは、4日間宿泊し、40度の熱を出した挙句に一度もオーロラが見れなかったというおまけ付きだ。

公平性を大事にしていうと、ヘルシンキの街はとてもコンパクトで、緑も多くて過ごしやすいし、人は優しいし、デザインショップはオシャレなものがいっぱいあるし、とてもいい場所だ。ただ、僕が憧れすぎていたのかもしれない。

コンパクトなヘルシンキの中心部。10年経っても一見あまり変わらない

そんなほろ苦い思い出のヘルシンキも今回で、3度目だ。1回目は、上述したデザインコンサルティングを始める前の覚悟を入れる旅。2回目は、デザインのキャリアに本格的に振るきっかけとなったアメリカのシカゴのデザインスクールの留学の後半に、サマースクールで北欧で勉強していた時に、当時、都市における公共デザインで名を馳せていたヘルシンキデザインラボのイベントに来て、今回が3回目。今回は、BIOTOPEを起業して4年目。ある程度会社の形もできて来て、これからどこに行こうかと考える時期。そう考えると、10年前に初めて訪れた時には、憧れていたデザインコンサルティングの仕事を、10年後にはちゃんと叶えた自分としてヘルシンキに降り立ったことになる。当時の自分の憧れの感情にケリをつけ、そして次の世界を考える。そういう旅になりそうだ。

Solo Sonos Hotelの展望バーから見えるヘルシンキ。実は地元の人はあまり来ないらしい。


ヨーロッパのロシア、フィンランド

ヘルシンキというのはちょっと不思議な街だ。北欧にありながら、ヨーロッパにいる感覚がしない。街を歩いている人は黒髪の人も多いし、ファッションも、黒ベースに蛍光色が入っていたり、髪も蛍光色を入れている人が多い。人は内気で優しく、でも、音楽はエレクトリックなパンクがあちこちで聞こえてくる。ここにいると、アジアでも、ヨーロッパでもない場所にいるようでまさに気分は「異邦人」だ。現地の人に話を聞いてみると、フィンランドは、北欧の雄スウェーデン(人口は1000万人と倍)と、東には世界の大国ロシア(人口は7000万人だが、喧嘩の強さは半端ない)に囲まれた、ヨーロッパにおけるロシア圏なのだ。派手だったり強かったりする中で、地味で内気な弟分というのが、そのイメージだろうか。だからか知らないが、日本人はとても親近感を持たれている。おそらく、森の中で生きていて、八百万の神を大事にしているとか、自分が出過ぎないで謙遜する姿勢があるなど、確かに似ている部分があるんだろう。ヘルシンキは、北欧の都市で言ったら正直オシャレな方ではないし、むしろ地方都市という趣がある。その日本で憧れられているイメージと比べるとむしろ地味な方だと思う。実際今回、町歩きをしていても、例えば、上海とか、深センとか、デリーを歩いているのと比べても、大きく成長している都市感も、感じにくい。

新たなイノベーションの震源地北欧

しかし、ここ数年感度の高い人の中では、世界のイノベーションの中心地が、シリコンバレー一極から分散して来ている流れがあり、北欧は間違いなくその一つの極になって来ている。フィンランドは、MaaSと呼ばれるモビリティサービスの社会実験が進み、エストニアは、ブロックチェーンを使った政府のIDシステムをはじめとした電子政府の取り組みや、E-residencyなどの国のオープン化が進む。スウェーデンでは、政府が100%キャッシュレス化を推進しクリプト化を進めている。ついでに、テクノロジーとは関係ないが、フィンランドではベーシックインカムの実験も進んでいる。何とも未来的ではないか。

その証拠に、ヘルシンキには日本資本のベンチャーキャピタルファンド、Nordic Ninjaというファンドが2019年1月から立ち上がっている。Nordic Ninjaは、Deep Techと呼ばれる次世代のテクノロジースタートアップに投資をするファンドで、MaaSのスタートアップとして世界的に有名なWhimを運営するMaaS Globalや、Bolt (Taxify)などにすでに投資をしているファンドである。画期的というか個性的なネーミングも、フィンランド人の視点からのマーケティング戦略、らしい。この北欧地域のVCファンドとしては規模が最大であるがゆえに、どのスタートアップイベントに行ってもモテモテのようだ。実際、フィンランドは、EUで設定したCO2排出のゴールの達成のために、2025年にガソリン車なし。そしてそのために先行してトラックなどの産業用については2020年代前半に完全にEV化を進める推進をしているらしい。いわゆる、高いゴールを設定してそれに合わせて社会の変革のドライブをかけていくというMoonshotとBackcastingによるビジョン駆動型の社会変革を政府自体が推し進めているらしい。今、ヘルシンキでは、MaaS関係のスタートアップが成長しているが、その変化のドライブがかかっているのも、経済面のみならず、CO2排出量というゴールに対するトラッキングが進んでいるのも大きいという。実際に、この数年、MaaSサービスへの移行が進むことで、CO2排出量が改善しているという「小さな成功」がヘルシンキのMaaS化を推し進める原動力になっているという。

ヘルシンキのダウンタウンの西側にあったコワーキングスペースmaria01。病院を改装して作られたらしい。

ヘルシンキで感じたMaaSの現在地と本質

日本では、MaaSはバズワードになってきている。車を買う、電車に乗る、というモノに対して価値が発生する時代から、移動するという体験が価値になっていくという時代の変化というやつだ。Uberのようなライドシェアサービスは僕らにとってもすでにイメージしやすいものだろう。

ヘルシンキでは、実際に公共交通機関のチケットのアプリ化が進んでいる。一番知られているのは、HSLといういわゆるヘルシンキの電車、トラムを運営している会社(日本でいうとJRだろうか)が、アプリを発行してそこでチケットをオンラインで買える。ヘルシンキのすごいところは、自動改札機や改札がなく、基本的にはチケットを買っているだろう、という良心に任されていること。ほとんどチェックされないが、時々抜き打ちのチェックがあって、チケットを買っていないことがバレると高い罰金が科されるという仕組みになっている。

これは、性善説の上で一度市民を信頼し、それに背いた場合に罰則を厳しくするという考え方で運営されているのだ。こういう改札がない信頼ベースの仕組みがあることが、MaaSサービスの導入を非常にやりやすくしている社会背景をまず抑えていく必要がある。

そして、ヘルシンキにおけるMaaSサービスで知られるのがWhimだ。これは、現在地と行く場所を設定すると、電車—トラムを乗り継いで行く場合、タクシーで行く場合など様々なオプションが提示され、一度購入すると、各交通機関に乗る際には、その購入画面を見せることでサービスの購入が代替されたというわけ。これは、実際に旅行者からしたらめっちゃ便利だ。何しろフィンランドは、フィンランド語だ。フィンランド語の看板は非常に旅行者からするととってもハードルが高い。どうせドイツ語もフランス語もわからないから対して変わらない気もするが、文字がロシア語系なこともあってよりわからず、以前は移動にかなり苦労したものだった。しかし、住所さえ入れれば移動が完結するというのは旅行者の視点から見ると非常にありがたいサービスだ。

しかし、これだけだと単なるアグリゲーションアプリでしかない。一応タクシーも呼べるよさもあるが、そもそもヘルシンキではそんなにタクシーを頻繁に呼ぶ機会がない。そこで、Whimで今目玉にしているのが、様々なサービス形態だ。上記のようなA地点からB地点に行く最適なルートを購入できるサービスは、Whim to Goと言ってタダ、のサービスだが、それ以外に定期購入型のサービスが用意されている。Whim Urban30は、30日分のHSL乗り放題、Taxi10ユーロまでのチケット、車のレンタル1日あたり49ユーロから、シェアサイクル30分分のチケットがついて毎月62ユーロ。これは、結構手ごろなプランだ。Whim Weekend GETAWAYという週末バージョンのサービスは、週末のレンタカーが使い放題(週末と言っても金曜日の3時から月曜日の2時なので、結構長い週末だ)。Whim Unlimitedというプランは、月499ユーロで、公共交通、タクシー、レンタカー、シティバイクが乗り放題というサービスだ。

MaaS Global資料より。(引用:https://www.slideshare.net/insam/maas-global-helsinki-2016)

Whimというサービスは、この地域の移動がし放題、という感覚になる。ヘルシンキは、実はかなりコンパクトな都市なので、トラムによる移動で用が足りてしまうため、まだまだHSLを利用している人が多いというのが現状だが、都市内の公共交通機関が充実している都市に向けて展開して行くのだろう。

ヘルシンキで感じたMaaSの現在地と本質2

実は、今回の旅で一番衝撃を受けたのは今年の3月から始まったというE-kickboardのサービスだ。子供がよくキックボードを使って移動しているのを見ると思うが、あれに電動アクセレレーターがついた個人向けのEVとも呼べるものだが、これがとにかく楽しい。ヘルシンキでは、VOI/TIERという2つのブランドが同時に展開しており、街のあちこちに乗り捨てられているのを見る。始めるのは簡単。アプリをダウンロードし、地図から近くに乗り捨てられているものを探し、Start Rideというボタンを押し、QRコードを読み取るだけ。初めて乗った自分でも、全く違和感なく操作できるくらい操作が簡単で近距離移動は誰でも簡単にできる。

街中で見つけたe-kickboard TIERは旅人にとっての移動の必需品に。

ほんとは、ヘルメットをつけないといけないとか、歩道は動いちゃいけない、などがあるのだが、旅行者はもってなかったり、知らなかったりするので、守れなかったりもしたけど、実際この存在によりヘルシンキ市内の移動は格段に楽しくなった。やろうと思えば、スピードをゆっくりにして進むこともできるし、すぐに止まれるので、自転車よりも街の景色を楽しみながら移動できるようになるのだ。町歩きをエンターテイメントに変えてくれるモビリティという感じで、このサービスは流行ると思った。今までのMaaSサービスは、煩雑な移動を便利にするだけのものだったけど、このサービスは初めてと言っていいくらい、移動が楽しくなる、という新たな移動文化を作る可能性を感じるサービスだった。以下の写真のようにあちこちに置いてあり、シェアサイクルのようにアプリで最も近い場所も教えてくれる。

街のあちこちでe-kickboardの停留所が。時々、乗り捨てされている子を拾ったりも

他にも、カラサタマというスマートシティの実験区の地域では、朝に高齢者に向けた自動運転の巡回バスのサービスが行われていたり、実際にあちこちで新たなモビリティの実験がされているのは、やはり新たなモビリティを考える上でヘルシンキはとても面白い場所だ。

MaaSから考える未来のモビリティとは?

こう書いていくと、MaaSサービス万歳、というように見えると思うが、今回はそもそもMaaSサービスって何なんだっけ?ということを考えさせられた旅でもあった。毎度、僕は海外に行く時にFacebookやTwitterなどの出会い系サービス(笑)で現地での偶然の出会いと、一緒に町歩きをしたりするのだが、今回もトゥルクに在住している方と一緒にヘルシンキの町歩きをした。そこで話してて印象的だった言葉。「もう10年住んでいるけど、ヘルシンキでタクシー捕まえたことなんですよね」「え?一回もですか?何で???」「高いし、公共交通機関が充実しているし、そもそもヘルシンキとエスポー(だいたい地下鉄で20分くらいの東京でいうと横浜のような都市)を移動するだけですから、そんなに複雑な移動しないですし」「へえー、でもフィンランドって働き方も自由なんですよね?そしたら、あちこちに移動するニーズもありますよね」「そもそも、こっちの人1日にいっぱいアポを入れないんですよね。」

ヘルシンキの街を歩いているとこんな景色の中を歩く。歩くこと自体がデトックスだ

そっか、僕は東京でUberとかタクシーとかガンガン使ってるけど、むしろ、便利になったからより多くのアポを詰め込むようになったという一面もある。それは、時間あたりの生産性という意味では素晴らしく革新的なことなんだけど、1日に何個のアポをこなすことがそもそも本当に素晴らしいことなのか、というのは考えどころだな、と思った。東京で生活していると、色々なことができちゃうから常に時間に追われる生活をするのが当たり前になっている。もともとできないとやろうと思わない。MaaSのような、時間効率を上げるアプリは、結果的に出来ることを増やし、同時に時間の使い方の余白を減らすというマイナス面も間違いなく持っているのだ。便利と、余裕というのは両立し得る。が、生産性にしても、アポの数にしても量を最大化しようというマインドセットのままで、便利になると、結果的にはより忙しくなる。そんな僕のような生活は、トゥルクに住んでいる方から見ると、何をそんなにせくせく生きているの、という風にも見えるのだろう。

最初の話に戻ると、ヘルシンキのMaaS化のプロジェクトの目的は、単なる時間効率アップでも、ビジネスの最大化でもない。都市における車を減らし、CO2を削減するという大目標がある。これは、国内に車メーカーがないからこそ、推進しやすいテーマであり、それは都市の持続性にも叶っている。MaaSサービスは、ライドシェアのような、既存のシステムを破壊するものではなく、既存のサービスを生かして最適化するというより社会インフラの体験デザインがテーマだが、その根本的なところには時間効率のアップではなく、都市の持続性という理念があるからこそ、ここではMaaSの正しい使い方が証明されて行くのではないかと思う。(実際にライドシェアがどのように受け止められているのか、もう少し知りたい)

北欧で感じるオフへのスイッチの知恵

北欧は、夏と冬で違う顔を見せてくれる。別の国だと言っても過言ではない。以前デンマークに1月に来た時には、朝9時からのワークショップに向かう道は真っ暗で、夜も4時には真っ暗になる。街も寒く、外を歩く人もほとんどおらず、寒々しい。世界で一番幸せな人たちが多いという調査の結果とは裏腹に、鬱になる人が多いことでも有名だ。だからこそ、彼らは室内の楽しみを充実させる。世界的デザイナーアアルトに代表される北欧家具は世界的にもとても有名だけど、それは、それだけ室内を長く過ごす必要があるからなのだろう。実際に冬場は家にこもって、音楽を聴いたり、映画を見て過ごす人が多いという。北欧で独特の音楽文化が生まれるのも、この時期を過ごす必要に迫られて生まれた知恵、というのは、たぶん、多分にある。だからこそ、夏を迎えたここの人たちはウキウキしているようだ。夏の楽しみといえば、お日様を浴びながらテラスでのビール、アウトドア、そして、セカンドハウスのあるコテージに行ってサウナだ。

フィンランドの人は、だいたい誰でもコテージを持っているという。土地を借りて、何年もかけて、自分でコテージを建てるいわゆるDIY Houseだ。実際僕の友人でスウェーデン人と結婚して、スウェーデンに移住した女の子も、「最近、家作ってるんだよねえ」、と言っていたっけ。基本的には、自立して自分で自分の生活を作って行く独立精神を持った大人の集団がフィンランド人だという。(そして、多分北欧の人は多かれ少なかれみんなそういう面を持っていそう)

一年で一番日が長くなる6月22日過ぎから、ヘルシンキの都心はガラガラになる。みんなコテージに行って、待ちに待った季節で弾けるのだという。

定番は、森の中のコテージで、サウナに入り、そして、湖に飛び込む。あらゆるものからDisconnectされたマインドフルな時間。

ヘルシンキっ子のクリエイティブ層に人気のCulture Sauna

今回は4日間も滞在があったので、初めて森への散歩と、サウナを体験することができた。これを体験しないと、夏にヘルシンキを体験したことにはならないだろうと思って。

ヘルシンキから鉄道とバスを乗り継いで行ったところにヌクーシオ国立公園という場所がある。日本でいうと、那須塩原といったところだろうか。森の中には、美しい湖があり、公衆サウナがあり、そして、ベリーを摘みながらBBQを楽しんでいる。車でキャンプ場に行くようなノリの場所にあるため、電車で行くのは体験で最寄りの何もないバス停(降りたら非常に不安になる)から、徒歩30分森の中を歩いたところにハイキングコースがあった。日本のハイキングコースと比べても自然そのままを楽しむというコンセプトなのか、売店は入り口に一箇所のみ。BBQも全て自分で持ち込みで、全て調達して、自分で勝手にキャンプを張って楽しみなさい。という精神だ。そう考えると日本のこういう施設は便利だなあ、と思うのだが、だからこそ、素の自然を楽しめる。実際にトレイルラウンをしている人も多いし、きっと冬は脅威でしかない自然そのものをこの季節だから味わうことがれっきとした楽しみになっているのだろう。

ヘルシンキ市から1時間半の所にある国立公園ヌクーシオ。森で遊ぶとはこのこと。

もちろん、携帯の電波は通っていないし、これだけ自然があるとそもそも日常の細々としたことを考えていることがどうでもよくなる。ある種、このような場所に移動することで強制的に人間モードに戻ることができる切り替えのスイッチがすぐ身近にある、というのがとても魅力的だなと思った。実際に、前述のトゥルクに住んでいる方も、すぐ裏が森に住んでいて、普段から自然の中で仕事をしていると、あまり多くを求めようと思わないし、逆にスマホから離れたいとも思わないという。僕は、最近東京という場所で忙しく生活している中で、適度なデジタルテクノロジーとの距離を取りたいと模索をしているんだけど、それは通勤電車に代表される都会の環境が不快であり、広告もいっぱいで常に頭がオンになる環境が作られているからなのだろう。(最低でもフィンランドでは、電車の中にもほとんど広告はなく、街中でいわゆる商業的なことを感じる機会は非常に少ない)

そんなことを考えながら、ゆりかごから墓場まで、フィンランド人にとっても一番大事な場所、「サウナ」に行った。サウナは、フィンランド人にとっては、日本人がバスタブを必ず持つように、一家に一台必ずサウナを持つのが当たり前だ。だから、公衆サウナのような場所に行くのは必ずしも当たり前じゃないんだろうけど、最近ではサウナ文化を紹介するために環境客向けにオシャレないサウナが人気のようだ。Loyfiという市内の一番南のオシャレサウナに行った。

観光客にとってのサウナ体験といえばLöyly

ここでは、20ユーロあまりで2時間サウナを楽しめる。フィンランドのサウナは水着を着てはいるのだけど、これも貸してくれて、フィンランド式のスモークサウナと、スウェーデン式の炭のサウナの二種類を楽しめる。フィンランド式のサウナは、真っ暗な中でおそらく100度近い熱さの日本よりも強烈なサウナ。スウェーデン式のサウナは、60度くらいでだんだんぬるくなってくると交代で水を入れて熱くし続けないといけないサウナだ。面白いのは、フィンランド人の取っ手のサウナは、タバコ部屋や居酒屋のような場所だということ。お酒を飲んだり、普段話せない話を話したりする、人と人が深くつながる。文字通り裸の付き合い。日本のサウナは、1−2分我慢できたら勝ち、みたいな我慢比べゲームところがあるけど、こちらのサウナは、熱くなったら今度は海や湖に飛び込み冷ましてから何度も入る。実際バルト海は、15度くらいと非常に冷たく、入ると一気に目がさめる。はっきり言って、超気持ちいい。外の快晴の空でサウナを楽しむのは、あたかも、都市の中のリゾートで遊んでいるような感覚だ。

サウナに入ることは、日々いろいろ考えている雑念を一気に吹き飛ばし、自分の体のモードにスイッチを入れることが出来る体験だ。この頭モードと体モードをうまく往復するスイッチの切り替えとしてサウナは非常に適しているし、こういう体に良い習慣を楽しみとして出来る、ヘルスケアエンターテイメントは、これから日本にも非常に来るのではないかと思う。実際に、ネットヘビーユーザー層ではサウナーなんていう言葉もあるし。デジタルデトックスとしても最高の体験だと思うし、お風呂やサウナの再定義、というのはデザインの視点でも、Wellbeingを上げて行くライフスタイルという意味でもとても面白いデザイン機会になるのではないかと思う。誰かこのテーマでやりたい人募集します。

VISION DRIVENでイノベーションの生態系ができているフィンランド

MaaSとサウナという2つのテーマからフィンランドでの体験を書いてきたが、強調しておきたいのは、こちらのライフスタイルは日本の6−7割しか働かないし、民間企業の数も少ないのでスタートアップをやるか、国系の仕事をすることが多いということ。どんな産業があるんですか?と聞いたら、ノキアに代表される通信を除くと、ゲーム、ファッション、バイオマス、、、くらいじゃない?とのこと。(ちゃんと調べてないのでもっとあると思いますが)人口500万で少ないとはいえ、この国は、政府が大きなゴールを掲げ、イノベーションを促す環境を整えつつイノベーション機会を作り、ノキアが人材供給源となって起業家を生み、そこに資金を外部から受け入れるという循環が回り始めている。日本はもっと大きな産業がたくさんあるから、彼らよりももっと豊富なリソースを持っているだけに、なぜ一人当たりGDPでこんなに差がつくのかは謎だが、フィンランドと一緒にできることや学べることはとても多いと感じた。

・政府がCO2のような社会的なゴールを設定し、それに合わせてテクノロジーを使った社会実装が進んでいること

・ノキアのような大企業がイノベーション人材の供給元となり、産学連携によってイノベーションを実際に生んで行く流れが作れていること

・介護などの高齢化社会に向けた取り組みではヨーロッパでもっとも早く社会課題が顕在化する国でもあり、日本とケースをシェアできることが多いこと

・教育に対する長年の投資の結果、人材の質が圧倒的に高いこと

・政府に、アアルト大学などのデザイン人材が入って行くこともあり、政府のサービスデザインの質が高いこと

社会の信用の蓄積に示されているような成熟度が違う、教育レベルが違うという大きな前提の違いがあるから、一概には言えない。しかし、道州制を日本が導入した場合の州のマネジメントとして、希望の光を感じられるものを見せてもらったヘルシンキへの旅だった。

TEXT BY KUNITAKE SASO

戦略デザインファームBIOTOPE代表/チーフストラティジックデザイナー。東京大学法学部卒。イリノイ工科大学デザイン学科(Master of Design Methods)修士課程修了。P&Gにて、ファブリーズ、レノアなどのヒット商品のマーケティングを手がけたのち、ジレットのブランドマネージャーを務めた。ヒューマンバリュー社を経て、ソニークリエイティブセンター全社の新規事業創出プログラム(Sony Seed Acceleration Program)の立ち上げなどに携わったのち、独立。B to C消費財のブランドデザインや、ハイテクR&Dのコンセプトデザインやサービスデザインプロジェクトを得意としている。「直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN」、『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』著者。大学院大学至善館准教授。

Published in未来観光