Skip to content

【対抗文化の新都より Vol.5-1】
ベルリン
都市型ガーデンにみる暮らしの変容

ベルリンでは、6/27から接触禁止令が解除され、大人数のグループで会うことも可能になった。少しずつ様々な制限が解かれ、経済活動やソーシャル活動の幅も広がり、日常に戻りつつある。

以前、アフターコロナの記事の中で綴った自然との向き合い方。
該当記事はこちら:【After Coronaの世界 vol.4-2 】ベルリン、地球環境×人の共生社会

自然の中で、ゆっくりと過ごす時間は、自身の内省につながった。自己の内省は、自分を取り巻く様々な人、モノ、事象について考える機会となった。あらためて様々なことに気づきを与えてくれた自然空間に感謝をしつつ、パンデミックが収束しつつある日常でも、自然との共生、そこで得る感覚を大切にしたいと思うようになった。

そんな中、周りの友人をつうじて、訪問する機会が増えたコミュニティガーデンや郊外のサマーハウス。都市の中の自然、都市から近い自然を生活の中にとりいれたライフスタイルを実践する友人たちの暮らし、そうした暮らしから生まれる活動やコミュニティのかたちについて、この記事では綴って行きたいと思う。

7年待ちも?!需要が高まるコミュニティガーデン

ドイツの各都市には、クラインガルテン(Kleingarten)と呼ばれる貸し農園があるのだが、その需要はコロナ危機を経て、高まっているという。ドイツの各都市にあるクラインガルテンには、特に、子供を持つ家族づれ、若者や学生などからの問い合わせが急上昇しているそうだ。ドイツのクラインガルテンを包括的にとりまとめている、ドイツ庭と友好連邦協会によると「少なくとも前年の2倍以上の需要がある 」という。

敷地内に連なる個々のガーデン。
ラウベ(小屋)と庭がついて、花や野菜を育てている。

ベルリンには、700以上のガーデンに対し、約70,000の割り当てがある。これは、ライプツィヒやハンブルクの2倍であり、ドイツでも上位を誇る割り当て数である。ガーデンの総面積は3,200ヘクタールを占め、都市の緑化の約10%を占めている。コミュニティガーデンがブームと化している中、空きが出るまで7年待ちというベルリンのガーデンもあるそうだ。また、ベルリンから郊外や地方のクラインガルテンを訪問する若者も増えているという。

都市型クラインガルテンがもたらした自然に還るライフスタイル

私の周りでも、ベルリンにコミュニティガーデンを借りたり、郊外にあるコロニーにサマーバンガローを借りている友人がいる。彼らのライフスタイルや暮らしの価値観はどう変化したのか?
実際に彼らの話を聞いてみた。

デザイナーである Nayeli(35)とリサーチャー Felix(32)、2歳になる娘 Itoちゃん一家は、友人である3家族と共同でベルリン・ノイケルンにあるクラインガルテンを借りている。

1.コミュニティガーデンを借りた理由は?
Nayeli : 「友人たちが誘ってくれたのがきっかけ。ベルリンで野菜を育てるスペースを探していたの。ベルリンは都市だけど、その中にある公園やガーデン、例えば、MoritzplatzのPrinzessinnengärtenや、Tempelhofer Feld(空港公園)の中にあるコミュニティガーデンは私のお気に入りで、自然に近い空間で自分の時間を持つことの重要性はずっと感じていた。自分たちが自然から学んだこと、自然の営み、野菜の育て方、虫や動物、植物の生態系のサイクルなどを娘には教えたいと思っているわ。」

Tempelhofer Feld(空港公園)の中にあるコミュニティガーデン

2.コミュニティガーデンをどのように利用しているの?
Nayeli :「ガーデンでは、野菜や果物を栽培している。たまに仕事をすることもあるし、朝ごはん、ランチ、ディナーなどの食事を友人を誘って食べたりしてる。コロナ危機の前は、週末によく家族や友人と集まっていたわ。外出自粛期間のあいだは、家族と一緒にガーデンで過ごす大切な場所になった。娘はこのガーデンで遊ぶのが好きみたい。たくさんの昆虫、鳥と触れ合い、植物を育てる体験を通して、自然に関する知識や経験を観察し、学んでいるの。」

Felix : 「Nayeliが言ってたようにディナーやちょっとしたパーティーもするけど、僕にとっては、一人の時間を過ごす隠れ家的な場所になってる。都会のストレスから離れた、緑豊かな場所なんだ。野菜や果物を栽培していることもあり、関わっているみんなが、ガーデンの手入れを頻繁におこなっていて、コミュニティとしても機能してる。野菜やを育てるのが上手になればなるほど、みんな自分の中で達成感や自信を持ち、自分や人のためにもっと頑張ろうと思えるんだよね。」

3.どのくらい使っているの?
Nayeli :「4月から11月まで、ガーデンの水道には水が通るから、夏に利用することは多いわね。ロックダウンも関係して、今年には昨年よりも、ガーデンで過ごす時間が増えたかな。人通りの多い場所を避けているのもあって、家から徒歩5分のガーデンは生活には欠かせない場所になった。晴れた日には、娘と一緒に午後のひとときを過ごしている。リラックスしたり、自分の考え事をするのに最高の場所よ。」

4.コミュニティガーデンを利用するようになって、生活はどう変わった?
Nayeli :「私は、日常では家族や様々なコミュニティの一員。それは私にとって非常に大事なつながり。自然環境の中にいる時は、様々なつながりから自分が解放される感覚を味わうことができる。その感覚を味わうことで、人生の捉え方、自然への向き合い方が変わってきていると感じているわ。2歳の娘の世話に追われる日々で、積極的に植樹活動や自然保護の活動に参加できる時間はあまりないんだけど、できる限り、環境問題に向き合いたいという気持ちが芽生えた。特に自然の中で、生命がどのように成長していくかを見ることが好き。生と死のサイクルを生活の中で感じる瞬間は、私に色々な発見を与えてくれる。今は、いろいろな種類の植物や昆虫についても学んでいるところ。昆虫のパワーに興味があるの。」

Felix : 「育てている野菜や植物、動物や昆虫、気候など、たくさんのことを学んでいるね。特に、より良いガーデンにするために、いつも何かしら修理しなければならないものがあるから、ガーデンや畑に関連するDIY、工具やメカニカルな知識、構造システムもすごく勉強になっている。こうして得たスキルは僕の誇りで、今や手放したくないものだよ。自分が作ったものを見たり、育てたものを食べたりするのは最高の気分。自分に自信が持てるようになったかな。僕は知的な仕事を中心としているけど、ガーデンで仕事をしたり、ぼーっとする時間のおかげでライフワークのバランスが向上したと思うよ。」

5.環境保護に関連した生活習慣はある?始めたきっかけは?生活に変化はあった?Nayeli : 「堆肥(コンポスト)をよく利用している。ガーデンに有機廃棄物をリサイクルするスペースが欲しいと思ったの。有機廃棄物をどう自然に還元していくかというフェーズの実験を私たちは、自分たちの生活とガーデンの中で実践している。果物や野菜を育てることで、一部の食材は、スーパーで買わなくなった。これをきっかけに消費活動も、さらに見直したいと思うようになって、様々な野菜や果物を自分たちの手で育てようと計画中しているところよ。」

Felix :「ガーデンに必要な設備や機材などは、新しいものを買うのではなく、中古のものや壊れてしまったもの修理して使うようになった。部品には、廃材や金属を再利用しているね。」

私も彼らのガーデンには、何度か足を運んだが、自分の暮らしの中で簡単にアクセスできるこうしたクラインガルテンの中には、エコロジーを感じられる世界が広がっている。
日常生活の中から自分が解放されることで得られる心身の健康。野菜や植物を育てる中で、自然のサイクル、つながりかたを改めて学び、自然との共生を意識した暮らしの実践を行うマインドへと変化したこと。

彼らのライフスタイルや価値観の変容から、暮らしの中にあるグリーンスポットが市民の中でのエコロジー思想を高めていくことにつながっていることに気づく。
ドイツでブームになっているコミュニティガーデンへの関心が、一過性のものでなく、自然との共生社会を築く行動変容へどう繋がっていくかは注目したいポイントでもある。
日本でも、農業体験や郊外暮らしへの関心が高まってきている。
実際に自然と距離が近くなることで、ライフスタイルにどんな変容が生まれているのかが気になるところだ。

次の記事では、ベルリン郊外の自然豊かな街にサマーハウスを購入した友人の例を挙げながら、自然の暮らしの中で生まれるクリエイティブコミュニティ、ハイブリッドに都市と郊外を横断する暮らしの可能性について考察してみたい。

TEXT BY SAKI HIBINO

ベルリン在住のプロジェクト& PRマネージャー、ライター、コーディネーター、デザインリサーチャー。Hasso-Plattner-Institut Design Thinking修了。デザイン・IT業界を経て、LINEにてエクペリエンスデザイナーとして勤務後、2017年に渡独。現在は、企画・ディレクション、プロジェクト&PRマネージメント・執筆・コーディネーターなどとして、アート、デザイン、テクノロジーそしてソーシャルイノベーションなどの領域を横断しながら、国内外の様々なプロジェクトに携わる。愛する分野は、アート・音楽・身体表現などのカルチャー領域。アート&サイエンスを掛け合わせたカルチャープロジェクトや教育、都市デザインプロジェクトに関心あり。プロの手相観としての顔も持つ。

Published inBerlinClimate ChangeEcologyEuropeSocietyその他対抗文化の新都より