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ベルリン 郊外から生まれる暮らしの多様性

対抗文化の新都より Vol.5-2

前編では、コロナ危機を経てブームとなっているコミュニティガーデンに焦点をあて、都市の中で自然との共生をはかるライフスタイルがもたらすものについて考えてみた。
該当記事はこちら:【対抗文化の新都より Vol.5-1】ベルリン、都市型ガーデンにみる暮らしの変容

この記事では、ベルリン郊外の自然豊かな街にサマーハウスを購入した友人の例を挙げながら、自然の暮らしの中で生まれるクリエイティブコミュニティ、そしてハイブリッドに都市と郊外を横断する暮らしの可能性について考察していきたい。

郊外で生まれるクリエイティビティ、コミュニティのかたち

私の友人のひとり、写真家であるMarie(31)は、昨年秋に、ベルリン中心地から電車で1時間以内にあるエリアOranienburgにあるコロニーに、庭付きのサマーハウスを購入した。通常に比べたらを手ごろな価格だった物件は、かなり荒れ果て、ジャンクなもので溢れていた。彼女は、都市から離れた自然豊かなこの場所で、特別な時間を過ごすこと、自分たちの手でスペースやガーデン、畑などをデザインすることに興味がある友人たちを誘い、完全DIYでこのスペースを共同でリノベーションしようとしている。これには私も興味があることから、改装計画に度々、参加させてもらっている。

都市にはない環境が郊外の街や村にはある。
自然のスケールも質も、少し郊外に出るだけで圧倒的に変化する。ベルリンの中では味わえない静けさ、自然のワイルドさ、ゆったりとした時間が郊外にはあるのだ。都市とは異なるローカルのコミュニティや価値観が織りなす独特の環境も、普段の生活とは異なる。それらは、都市の暮らしと切り離された空間に身をおくことでしか得られない感覚ともいえる。

Marie :「これからの人生を考えた時に、自然の中でゆっくりと過ごす時間を持ちたいと思っていたの。ベルリンでは、いつもいろんなことが起こっていて、エキサイティングな生活ができるけど、その中で消費されていくものや見失うものもある。コロナ危機は、自分がどんな時間軸、環境、つながりの中で生きていきたいのかを考える期間でもあった。ベルリンの暮らしから解放された別の環境で、友人たちとエコロジカルな生き方、自然とのつながりやDIY、オーガニックなコミュニティの可能性というものを考えてみたいと思ったの。」

実際にデザインしていく中で学ぶ知識というのは、頭で考える知識とは異なる価値がある。荒廃したスペースをエコロジカルなスペースに生まれ変わらせるために行なわれる様々なクリエイティビティの実験。例えば、省エネを意識した下水、電気、ガスやヒーターのシステム、中古や廃材を利用したリフォーム、植物や野菜の育て方、資源はリサイクル、リユースをを心がけ、有機廃棄物は自然に還すなどといった計画が改装の中で話し合われている。
また、都市と切り離されたスローな時間や自然空間の中で、日常自分が接続されている様々なモノから解放され自己を見つめ直すサイレントリトリートをはじめ、各自がこの環境でやってみたいと思うプロジェクトも構想されつつある。

価値観や感性ベースで育まれていく暮らしのかたち

都市の生活から距離をおき、価値観や感性を中心につながって育まれていく郊外型のコミュニティは、年々注目を浴びている。

例えば、ベルリンから電車とバスで3時間ほどのGerswaldeというエリアにあるGrober GardenやLibkenは、クリエイターやデザイナー、アーティストなどが中心となって発展している注目のコミュニティプロジェクトだ。

1.Grober Garden

Grober Gardenの中心人物は、映画監督/脚本家であるLola Randl。彼女は、10年前にGerswaldeというベルリンから車で1時間30分くらいに位置する村の中心にある教会の横にある家、広場、その向かいにある大きなガーデン、ガーデンハウスなどを購入した。彼女の感覚やコンセプトに共鳴した村の住人やベルリンに住むシェフ、職人、建築家、クリエイター、デザイナーらが集まり、ボランティアベースでこのコミュニティのデザイン、改築に貢献しこのスペースを育ててきたという。

5年の月日をかけて、ガーデン&ファームプロジェクト、日本人のコミュニティが営むカフェ、近郊の湖で取れた魚を扱う薫製バー、ハーブやフルーツを使ったドリンクやアイスを扱うバー&パーラー、アートギャラリー、Co working space、服のデザイナーが営むショップ、ゲストハウスなどが現在集まっている。
将来的には、アカデミー(学校)や劇場、ティーサロンなど様々なスペースを自分たちの手で作っていく予定だ。

2.Libken

Libkenは、2014年末からBöckenberg/UckermarkにあるLPGの住宅団地跡地に開発された思考と生産の場。Libken e.V.は、ベルリンをベースとするアーティストChristoph Bartsch、Larissa Rosa Lackner、Theresa Pommerenkeがイニシアチブをとり、Grossegarten同様に自分たちの手でボランティアワークを中心にDIYをしてデザインしてきたコミュニティだ。

建物とその周辺の多様な可能性を、自分自身をプラットフォームと捉え、オープンな場所として文化活動や芸術表現、食、ライフスタイルにまつわる領域の創造の場として発展してきた。アーティストレジデンス、料理と芸術・環境(サスティナビリティ)のための奨学金プログラムがある他、様々なアカデミーコース、イベントやワークショップ、ゲストハウス、劇場、オープンキッチンゲストハウスなどを兼ね備えている。

Gerswaldeに集まってくる人は、基本的にBerlinとGerswaldeの2拠点生活をしている。Berlinでアーティスト、シェフ、美容師、グラフィックデザイナー、ファッションデザイナー、フローリストなど様々な仕事をしつつ、このGerswaldeのコミュニティでお店をやったり、プロジェクトやイベントやワークショップなどを行っている。この環境に心を惹かれ、近年では、完全にこの村に移り住む人もいるそうだ。


コロナを受けて、ますます自然が豊かで都市にはない価値を持つ環境で、新たなライフスタイルをデザインする実験に注目が集まっているように感じる。こうした田舎が持つ独特の空気、ダイナミックな自然環境、自分の手で暮らしを築くことに心の充足を得る中で、多様なかたちの暮らしが混在する日常を思い描くようになった。

クリエイティブ、デザインアートプロジェクトが郊外に切り拓くエコロジカルでオーガニックなコミュニティ。物理的・機能的な価値を超え、感性や価値観ベースで繋がる人や自然との心地よい関係性は、新たなクリエイティビティコミュ二ティの姿になりうる。こうした都市でも田舎でもない未分化の領域(グレーゾーン)には、資本主義社会では見ることができない様々な可能性が含まれているのではないだろうか。

TEXT BY SAKI HIBINO

ベルリン在住のプロジェクト& PRマネージャー、ライター、コーディネーター、デザインリサーチャー。Hasso-Plattner-Institut Design Thinking修了。デザイン・IT業界を経て、LINEにてエクペリエンスデザイナーとして勤務後、2017年に渡独。現在は、企画・ディレクション、プロジェクト&PRマネージメント・執筆・コーディネーターなどとして、アート、デザイン、テクノロジーそしてソーシャルイノベーションなどの領域を横断しながら、国内外の様々なプロジェクトに携わる。愛する分野は、アート・音楽・身体表現などのカルチャー領域。アート&サイエンスを掛け合わせたカルチャープロジェクトや教育、都市デザインプロジェクトに関心あり。プロの手相観としての顔も持つ。

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