Skip to content

[ハイテク都市 貴陽 vol.1 5G編]
ビッグデータエコシステムを実装して経済発展を遂げた中国「貴陽」

中国最貧都市からユニコーン企業を輩出する経済都市へ

BIOTOPEでデザインリサーチを担当している金安です。今回は、中国のビッグデータ都市で経済成長を続けている貴州省貴陽市をリサーチしてきました。中でも興味深い事例を記事として共有します。本連載は、前編・中編・後編の三部構成になっています。

貴州省貴陽市は、中国西南部に位置しており「カルスト都市」と呼ばれ石灰岩などの水に溶解しやすい岩石で構成された大地が侵食・溶食されてできた地形が分布しており、省内各地で奇岩,滝, 洞窟などが数多く見られることで有名で「南方カルスト地形世界自然遺産」みなさんも一度はテレビや雑誌などで見たことがあるのではないしょうか。地形的な特徴から中国の避暑地として知られ、四季が明確で,冬は比較的暖かで夏は涼しく,雨が比較的多くて日照が少ないなどの特徴があります。

写真は貴陽市にある「南方カルスト地形世界自然遺産」

他にも、中国で最も少数民族が集まっており、苗 (ミャオ) 族,トン族,水族,布依(プイ)族など17少数民族 (全国では55少数 民族) が南東,南西の広範囲に居住しています。

(写真は貴陽市中心部の深圳のようにネオンで輝いているオフィス街)

そんな貴州省貴陽市は2006年時点で1人当たり総生産では全国の最下位の最貧都市でした。「中国最貧都市」と呼ばれ、治安も悪く、ITやビッグデータどころか経済において優位性はひとつもありませんでした。特徴的な地形ゆえに、近年まで高速道路は1本も開通していませんでした。そんな貴陽市が、物流版Uber「貴陽貨車幇科技」(時価評価額:7000億円以上)を生み出し、経済成長率が中国国内1位を維持し続けるようになった要因を考えていきます。(写真は貴陽市中心部の深圳のようにネオンで輝いているオフィス街)

一帯一路政策において重要なハブとなる貴陽市

「一帯一路政策」とは、習近平国家主席(最高指導者)が肝入りで進めている政策で現代版シルクロードと呼ばれ、中国西部から中央アジアを経由してヨーロッパにつながる陸の道と中国沿岸部から東南アジアを経由してアフリカ東岸につながる海の道の二つのことです。

貴州省貴陽市は、陸の道の中国の大都市上海や深圳、北京と中央アジアを繋ぐ、中国西部の中継地に位置しています。しかし、10年ほど前まで少数民族が多いことから昔ながらの風習を重んじた保守的な思考が強いことや都市部の治安が悪かったことから、政府は「貧困改善・ビッグデータ・大自然」のスローガンを掲げて、経済力を高めることで治安を維持する政策を実施しました。また、経済成長政策の一貫で、貴陽市を「貴陽国家高新技術産業開発区」と銘打って国内大手からの出資、GoogleやNTTなどの外資系企業を集めてハイテク産業に集中投資してきました。

2019年5月26日から29日までの4日間、貴陽市の貴陽国家高新区で開催された「中国国際ビッグデータ産業博覧会」に参加してきました。2015年からビッグデータ産業の重要な都市と政府が位置付けたイベントは2019年で第5回を迎えたエキスポの今年のテーマは「データは価値を作り出し、イノベーションが未来を動かす」でした。(展示内容については後述) その開会式でも、モロッコ議会副議長、ガーナ政府トップクラスなどのアフリカ諸国やアフガニスタンの首席、イスラエル政府などの一帯一路路線国の出席が目立ち、貴陽が一帯一路政策上重要な拠点であることが伺えます。他にも、ノーベル経済学賞を受賞したポール・ローマー氏やUNDP(国連開発計画)の担当者が参加しました。国連総長のメッセージでは、ビッグデータの活用による医療改革やドローン技術による農業改革で利便性が向上することに期待しつつも、テクノロジーの負の側面である人権やプライバシーの侵害、軍事利用されるリスクなど負の側面を懸念していました。

展示会は空港から車で40分程度の場所にあり、周辺には深圳のような高層ビルが立ち並ぶ産業エリア

ちなみに、昨年までのエキスポ開会式参加者には、アリババグループCEOのジャックマー氏やフォックスコンCEOのテリー・ゴー氏、モロッコの首相クラスなどでした。今年は、アフリカや国連などが参加したことで、ビッグデータ産業を海外に展開していく意気込みが感じられました。

2019年、ビッグデータEXPOの注目は「5G」

今年の展示会で最も注目を集めていたのは、テンセント、ファーウェイ、アリババ、チャイナモバイル、ZTEが展示していた「5Gのスマートフォンと多様な産業での利活用」でした。

中国の5G開発競争はすでに多様な産業での応用分野になっていました。昨年は自動運転車の遠隔運転までだったが、今年はそれが遠隔の重機を操縦するデモに進化していたことに会場に参加した人たちも驚いたそうです。

「China Mobile」のブースで実演されていた遠隔重機操縦

 

「China Mobile」のブースで実演されていた遠隔重機操縦

「China Mobile」は、貴陽市の展示会場からプロの重機操縦士が遠隔操縦している様子を実演していました。これも、5Gの活用によって高度な技術を有した人材が上海市や北京市などの都市部から開発途上地域(西安や重慶など)や東南アジアやアフリカなどの遠距離地域を開発することができるようになるそうです。

他にも、「China Mobile」では北京にある医療系の大学病院や研究機関と深圳にあるサテライト校舎を5Gを活用して繊細な情報を連携して協働で開発をする様子が映像で紹介されていました。写真は、血液中の遺伝子を顕微鏡を通して取得したデータをリアルタイムにサテライト校舎に通信している遠隔遺伝子検査ツールです。

貴陽市にあるショッピングモールの一角にある5G体験

特に驚いたのが、貴陽市の中心部にあるショッピングモールの一角で「China Mobile」の体験ブースが設置されていたことです。写真の左側にあるモニターでは、目の前にいる人をカメラセンサーで取得し、同時編集することで身体情報を可視化している様子です。子供から高齢者まで5Gのことを知っており、既に市民の近くに5Gが存在することには驚かされました。

今年の秋発売予定のZTEの5Gスマートフォン

 

最も参加者からの注目を集めていたファーウェイのスマートフォン

会場内で最も人だかりができていたのは、ファーウェイとZTEの5Gスマートフォン展示ブースです。5Gの速度実験をしてもらった時には、これまでiPhoneで60秒以上かかっていた重いアプリケーションが5G対応スマートフォンの場合は10秒程度でした。会場内で実演してもらった速度テストでは、4Gの場合20Mbpsだったものが5Gの場合700Mbpsを上回っていました。

5Gの性能以外にも驚く点は、米中貿易戦争の発端でもあるZTEが、米国からの制裁として米国での製品販売を7年間禁止する経済措置を受けたことはご存知だと思いますが、会場の有識者曰く措置を受けた4月から3ヶ月で独自に半導体開発部門を作り、今回の展示会で5G対応スマートフォンを発表してしまう速さです。会場内では、ZTEが独自の半導体を搭載したスマートフォンを開発しているという噂も流れていたほど、米国から自立した開発基盤を築き上げていました。

「China Unicom」のVRを活用した製造現場の支援ツール

中国の5G開発競争は、インフラ構築段階から多様な業界での利活用段階に入っており、会場の展示は「実験」から「利活用と精緻化」に突入している印象を受けました。今年の秋以降、5G対応スマートフォンが発売された以降の市民の生活レベルでの利活用が激化するのではないかと思いました。

日常生活の全てがクラウド化する未来

今回、ビッグデータEXPOの展示会場に隣接する高級ホテルで同時開催された「ハイレベルサミット」ではビッグデータの利活用、法規制、5Gの応用、IoT、人工知能などの個別テーマごとに会場が分かれており、企業の役員クラスがプレゼン、トークセッションを行う場がありました。

ビッグデータEXPOの会場に隣接する高級ホテルで開催された「ハイレベルサミット」

特に、ファーウェイの副総裁がプレゼンした「5Gによって起こる変化」をテーマにしてプレゼンテーションでした。5Gは「速い4G」ではなく、全てがオンライン化することであらゆるスマート端末(ウェアラブル端末やスマート家電、車載設備など)とシームレスに接続し、革命的な変化をもたらすそうです。それを裏付けるデータとして、5Gのソリューションをすでに16000以上有しており、ファーウェイ単体で特許占有率を世界で20%以上も占めているのです。また、5Gの基地局の出荷量は2019年5月段階で10万以上を超えており、2022年までの3年間で5Gが5億人ユーザーに到達する予測を提示しており、実験段階ではなく、利活用を前提にしたビジネスを推進するファーウェイの勢いを感じました。

一方で、欧州を中心にグローバルではデータ保護の動きが活発化している背景があることも事実です。これは、データを企業が責任を持ってセキュリティ対策をする狭義の意味でのデータ保護ではなく、オフラインでは当たり前のように保護されていた個人のアイデンティティがオンラインと接合した社会で中央集権化されることで、デジタル上で個人のオフラインデータが複製されたり、コントロールされたりする可能性を防ぐ広義の意味でのデータ保護でもあるのです。東欧エストニアのブロックチェーン企業 Sovrin Foundationでは、「Sovrin ID」を発行し、分散化されたIDによって個人の完全に独立したアイデンティティ「Self-Sovereign Identity(SSI)」の実現を目指したサービスを開発しています。

ファーウェイの「5Gによってオフラインの全てがデジタル化する未来」は中国の市民やグローバルに輸出展開された時の世界市民にどう受け止められるのでしょうか。健全なデータエコシステムを実現させるためにデータを企業に提供する個人が自分のデータがどこに使われているのか?そして、自分では管理しきれないオンラインで個人のオフラインデータがどう悪用されるリスクがあるのか想像し、議論する必要があります。5Gの利活用が目前に迫った今日、テクノロジーの非線形的な進化によってより一層の複雑さが増す中で、ファーウェイのような先進企業と世界市民との関わり方を今後も注視するべきです。

(中編では「貴陽市のビッグデータ人材の育成と海外との人材連携」について寄稿する予定です。)

 

TEXT BY RUIKI KANEYASU

株式会社BIOTOPEにて新規事業開発、ビジョン開発、ブランド戦略を担当している。ミレニアル世代向けフィンテック新規事業開発、「モビリティ×街づくり」ビジョン開発と新領域事業開発、消費財企業が持つブランドの存在意義(Purpose)から新たな事業戦略創造などのプロジェクトを手がけてきた。行動観察手法(定性)と定量解析(定量)を組み合わせて、生活者、都市や文化のインサイトの導出や企業やブランドの存在意義を起点に中長期的な事業機会探索(Purpose Management・CSV領域)を得意としている。

Published inChinaData EcosystemGuiyangハイテク都市 貴陽