2019年9月20日、ニューヨークで開かれる国連の温暖化対策サミットを前に、若者が中心になって世界各国で気候変動に対する対策を求めるデモが行われた。163カ国で400万人以上が参加した#Climatestrike。
ベルリンでは27万人、ドイツ全体では150万人が参加したこのストライキ。そのストライキをした第一弾の記事に続き、第二弾、第三弾の記事では、ドイツに対抗文化が根付く理由を歴史的そして教育の観点から紐解いた。
今回の記事では、ヨーロッパの教育や社会システムの中で育った若者たちが中心にはじめた草の根運動が、政治・ビジネスに与えはじめている影響について取り上げたい。
若者主導の草の根運動がもたらす効果
第一弾の記事にも取り上げた、スウェーデンの16歳の少女グレタ・トゥーンベリさんが始めたFriday for Future、ロンドン発の気候変動への政治的対策を訴える市民運動Extinction Rebellionなどは、ヨーロッパの教育や社会システムの中で育った若者たちが中心にはじめた草の根運動である。
第三弾の記事にも記載したが、民主主義教育が根ずく社会の中で、子どもたちにとっては、こうしたデモも一つの民主主義の実践の場である。
昨今、こうした社会に広がる子どもの声に対する大人たちの動きにも注目が集まっている。
支持を伸ばすポストグリーン派政党
昨年5月下旬に実施された欧州連合(EU)の欧州議会選挙で「緑の党」系環境政党が4番目に大きな会派に躍進し、分極化が進んだ欧州議会で多数派形成のカギを握る存在となった。
グレタさんをはじめとする地球温暖化対策を求める若者たちのデモの拡大が影響したとの見方をされている。
各地に広がった抗議活動は学生が主体だったが、支持層は親の世代にも拡大している。
EUの世論調査では、気候変動対策を選挙の主要な争点と考える人の割合は、この半年間で若者と高学歴層を中心に上昇した。
出典 : https://en.wikipedia.org/wiki/Elections_to_the_European_Parliament
今回「緑の党」は、西欧や北欧の加盟各国で支持を伸ばしたが、特に顕著だったのがドイツであった。
得票率は20.5%で前回から倍増し、政党別で2位になった。出口調査によると29歳以下で3人に1人から支持を受けた。
もちろん環境問題だけが支持の理由ではない。
今回の選挙では、これまで欧州各国の政治の担い手になってきた左右の中道派の支持の低迷によって、グリーン派以外にも、自由主義派や環境保護政策に反対する極右勢力も議席を増やした。
しかし一方で、2年前の国政選挙で極右の「ドイツのための選択肢(AfD)」になびいた若者たちが、今回は気候変動対策に後ろ向きなAfDに対して背を向けたとも言われているところを見ると、政党も無視できないトピックの一つになっていると言える。
グリーン派(左寄り)の政党の発言は理想を描いたものにすぎないといった意見もヨーロッパの中ではある。
その一方で、環境問題やポスト資本主義について考えることがリベラルであるという若者たちのトレンドを考えると、グリーン派が戦い方を変えて新たなムーブメントを作っているのは、興味深いポイントなのではないだろうか。
ビジネスの流れを変える市民の選択
環境を意識する動きはビジネスの流れにも影響を与えている。食や移動手段などに関して、二酸化炭素削減に向けた選択を行う市民が増加している。
最近ヨーロッパで耳にするのが、Flygskam=飛び恥という言葉。
2019年4月のスウェーデン国内の空港利用者数は、対前年比で15%減ったと空港管理会社スウェダヴィア(Swedavia)が発表している。
一方、スウェーデンの主要鉄道オペレーターであるSJは、2019年1~3月の利用客数が対前年比で12%伸びたと発表、飛行機利用の低迷が見える。
2019年10月に100周年を迎えるKLMオランダ航空。
同社が6月に出した意見広告は、ビデオ通話などを利用した会議や、鉄道での移動など、「飛行機を使わない」よう呼びかける驚くべき内容だった。
KLMオランダ航空が次の100年に向かって打ち出した「Fly Responsibly(責任ある飛行)」計画には、高速鉄道という代替案、バイオ燃料の利用促進、少ない燃料で飛行できる新機体の導入などを織り込んでいる。
こうした取り組みは採用面でも大きな影響を与え、若者の環境意識の高さを知る一面となったという。
食品でいえば、地産地消のムーブメントが起こっている。
食品の輸出入にかかる飛行機の二酸化酸素、いわゆるフードマイレージ(食糧の輸送距離)を懸念し、近郊農家から野菜や肉、魚を買う人が増えている。地産地消に関連するベルリンの取り組みを紹介した記事はこちら。
実際、飛行機を使わないことや近郊農家からオーガニック食品を購入することは、やや割高な選択肢であり、決してお得な訳ではない。さらに、移動や購入の手間もかかり、お世辞にも便利とは言い難い。
これらの選択は意識の高い人が行なっているというより、ごくごく普通の日常の中でみられる光景である。
例えば、仲のいい友人に「旅行しよう!」と声をかければ、「飛行機を使うのは避けたいから、それを考慮してくれるならOK。」という返事が、当たり前に返ってくる。友だちとの楽しい旅の計画すら、環境ポリシーに反する場合は断念しても構わないという友人たちの意思には正直、驚いた。
世界中の科学者も動き出す
先日11月6日のBBCニュースでは、地球が気候変動による危機的状況に直面しているとする調査報告が発表され、各国の科学者約1万1000人が支持を表明したことが報道された。
過去40年間のデータを元にしたこの調査では、各国政府が危機への対応に失敗していると指摘。
根本的で継続的な変化を起こさなければ「膨大な数の人が被害を受ける」としている。
「最近、気候を心配する声が世界中で広がっていることに勇気づけられている。政府は新たな政策を導入し、子どもたちが学校でストライキを行い、裁判が進み、市民の草の根運動が変化を訴えている。」
「科学者としては、人々に重要な兆候を広く利用してほしい。また、データを画像で示すことで、政治家や市民にこの危機の深刻さを理解してもらい、優先順位を変え、事態を進展させてほしい。」
世界で広がる抗議運動が、いまだ有用な措置が取られていない政府の政策や企業のビジネスに変革を求め、科学者や政治家、企業を動かしつつある。
ヨーロッパでのデモを見ていると、単に妄信的にデモを行うという見解から「やる意味があるのか」といった議論をするのは表層的だと感じる。
デモであろうとなかろうと、市民一人一人が社会を作っていく自律性を持っているのか、そして社会がそれをどう汲み取り、反映していくのか。
今回の気候変動デモから見えてきたのは、過去の歴史を批判的に見つめ、未来社会に必要な要素を取り入れることで構築されてきた、自律的な市民社会システムや教育のしくみ。
一過性ではない、市民と行政、産業、教育の間をつなぐ市民社会のサイクルをどのように構築していくか、世界中で問われている。
TEXT BY SAKI HIBINO
ベルリン在住のプロジェクト& PRマネージャー、ライター、コーディネーター、デザインリサーチャー。Hasso-Plattner-Institut Design Thinking修了。デザイン・IT業界を経て、LINEにてエクペリエンスデザイナーとして勤務後、2017年に渡独。現在は、企画・ディレクション、プロジェクト&PRマネージメント・執筆・コーディネーターなどとして、アート、デザイン、テクノロジーそしてソーシャルイノベーションなどの領域を横断しながら、国内外の様々なプロジェクトに携わる。愛する分野は、アート・音楽・身体表現などのカルチャー領域。アート&サイエンスを掛け合わせたカルチャープロジェクトや教育、都市デザインプロジェクトに関心あり。プロの手相観としての顔も持つ。